第20話
一人で仕事をするとき、尋問相手に麻袋を被せるようになったのはいつからだろう。
狭い通路のようなところに私はいる。
この細い一本道は屋外なのか屋内なのか判別がつかない位に暗い。
なにより、左右に人がずらりと向かい合うように並んでいる。
しかし、彼らの目はお互いではなく、私に注がれている。
彼らは何も言わない。
目だけが呪詛に満ちている。
後ろに道はなく、彼らの間を進むよりほかはない。
前を通ると目線だけが私を追い掛ける。
誰一人ついてこない。
人の列を抜けると広けた場所に出る。
ここもいつもと同じだ。
ただ、最後に佇んでいる人間はいつも違う。
そこにいたのは頭が半分ほど吹っ飛んだ男だった。
確かセシルと言ったか。
トルコの銃撃戦で死んだ、自由シリアの声の構成員。
男が口を開く。
口から血を吐き出しているせいで何を喋っているのか分からない。
ただ、喉の奥からごぼごぼと漏れる息と血液だけが何かを訴える。
液体と空気が激しく触れ合うだけだった乱雑な音がいつしか、言葉になり、耳に届く。
「お前なんかに会いたくなかった」
トルコ語だったが、確かにはっきりと聞こえた。
「お前さえいなければ」
自分の背後から、今度は日本語が響く。
振り返ろうとしても身体が動かない。
否、動かせない。
身体のあちこちが何かに掴まれて動かせない。
正体は分かっている。
先程まで向かい合って立っていた奴らがいつの間にか自分の背後に迫っていたのだ。
ありとあらゆる言語で存在を否定される。
周りの人間が流した血が、気が付くと腰ほどの深さまで溜まり、そしていつしか首元まで血に浸かる。
何者かに首を後ろに引っ張られる。
引っ張る手を見ると、平たく潰れた指が有り得ない位の力で血溜まりに引きずり込もうとしている。視線だけを向けると、オスカー&ウエストの経理マンがそこにいた。
無数の手が血溜まりの中から突き出て、私を引きずり込もうとする。
「お前も同じ苦しみを味わわせてやる」
耳ではなく脳に直接響くように声が届く。
必死に抵抗するものの、そのままずるずると血溜まりに沈めようとする力がより強くなる。
「お前は本当は殺戮を悦んでいる」
誰の声かは分からないが、脳の奥に響く低い声が意識を侵略する。
私は抗うように声を発しようとした。
しかし、それ以上に強い力と意思が私を血の池の底に引きずり込む。
そして、私の意識は霧散していく。
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