原作レイプ!野獣と化した監督

ちびまるフォイ

これもう原作わかんねぇな

「というわけで、あなたの小説が実写映画化されます」


「はぁぁぁぁぁぁ!?」


寝耳に高圧ジェットを流し込まれたような衝撃を受けた。


「お、俺の小説ですか!? 映画館で上映されるんですか!?」


「そうですよ、おめでとうございます」


「うわぁ! 嬉しいな! 俺の小説を評価してくれたんですね!」


「というか、映画化にさいして使いやすいネタだったのと

 ほかに実写化できそうな原作がなかったので」


「えっ……俺の小説を評価してるわけじゃない……?」


「いえいえ、そんなことはないですよ、

 あなたの小説、10万PVじゃないですか。

 それって宣伝文句に使いやすいんですよ、"10万PV超えの人気作"って」


「やっぱり小説の評価じゃないじゃないですかぁ!!」


プロデューサーの言葉に俺は泣き出しそうになる。

それでも映画化というのは魅力的だ。


これを機に俺の作品を評価してもらえるきっかけになるかもしれないし。



「あの、それで監督は誰なんですか?」


「気になります?」

「それはまぁ……」


「大胡家監督です」


「大胡家監督って……あの、実写版『激震の超人』とか

 実写版『ジャッカルマン』をやった人ですか!?」


「よかったですね」


「思いっきり実写失敗してる監督じゃないですかぁぁぁぁあ!!!!」


「じゃあ映画化やめますか?」


「え゛……それは……その……やめませんけど……」


たまたま。たまたま大胡家監督が失敗しただけであって。

もしかしたら俺の作品で大ヒットしてくれるかもしれない。大物監督だし。



「あ、ちなみに監督の希望から作品の内容は変わります」


「はい?」


「まず、小説にある地下で暮らす設定ですがナシにします」


「ちょっ……世界観から否定!?」


「そして、全世界に充満してるウイルスの設定ですがこれもナシ」


「うそ!?」


「監督からの指定で、世界には超人が蹂躙して正義のヒーローが活躍してることにします」


「それ激震の超人とジャッカルマンの設定じゃないですかぁ!!!!」


原作レイプどころか原作を昏睡レイプされてしまってる。

これには原作者として黙ってはいられない。


「ちょっと待ってください! こんなのおかしいですよ!」


「映 画 化 や め ま す か?」




「……なんでもないです。素晴らしい原作の新解釈です」


俺の煮えたぎっていた反抗心はしゅんとしぼんだ。


いや、もしかしたら新たな改変で大人気になるかもしれない。

実写化して成功した映画の中にはそういうタイプもあるし。


「ちなみに、キャストって決まってるんですか?」


「ああ、決まってますよ。主演女優に水城ますみさん」



「……だれ?」


「今売り出し中のアイドルです」


「えぇ……」


最近見たアイドルが主演の映画で棒読み演技が思い出された。

なんというか……いやな予感しかしない。


「主演男優は?」


「今人気の『さなだダンゴバズーカ』から井上さんです」


「芸人じゃないですか!!!!」


海外のアニメ映画を吹替えした芸人の棒演技がよぎる。

もはやプロですらない。


「映画化やめますか?」


「わかりましたよ! わかってますよ! キャストもそれでいいです!!」


「あと言い忘れましたけど、恋愛要素も入れますんで」


「はい?」


俺の小説は新ウイルスの蔓延により世界に男女1組しか残ってない世紀末。

極限状態ではぐくまれる親と娘の信頼と絆を描いたものだが……。


「ヒロインの好きな風早くんって人をいれます」


「だれ!?」


「で、風早くんは双葉ちゃんが好き」


「また増えた!?」


「双葉ちゃんはヒロインと友達で、ヒロインを応援しつつも

 風早くんの気持ちを感じつつ悩むって感じです」


「世紀末設定どこいった!!」


「女性にも受け入れやすいようにしたんですよ」


なんかもう完全に面影なくなっている。もう我慢の限界だ。



「いい加減にしてください! こんな映画売れるわけないでしょ!!」


「知ってるよ!!!」


この間、コンマ2秒。


「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛……それプロデューサー側が言っちゃうの……」


「あたりまえだ! こんなクソ映画売れるわけがない!!」


「な……だったらなんで実写映画化するんですかぁ!」



「キャストのためだよ!!!」


プロデューサーは机をバンと叩いた。



「お前のクソ小説でもアイドルが人気出るかもしれないだろ。いわばお披露目会。

 うんこみたいな内容でもキャストだけでも人気でりゃ

 こっちは願ったりかなったりなんだよぉぉ!!」


「完全に人柱だよ!」



「じゃあ実写化やめますか?」



やめます。そう言いたい。

が、断ったとしても矛先が別の人に向くだけだ。


実写化失敗の代表として晒し上げられるなら……。


「あの、実写化成功させるためにひとつだけいいですか?」


「はい? こんなどう料理してもクソ映画にしかならないから

 もうなにをしてもいいですよ。ははは」


「もうやぶれかぶれじゃないですか……」


俺はプロデューサーに意向を伝えた。



 ・

 ・ 

 ・


実写映画公開後、プロデューサーは大いに喜んでやってきた。


「いやぁ、実写映画大成功だよ!! 本当によかった!!」


「言った通りでしょう? 俺だって自分の作品を実写化するのなら

 成功してほしいと思っていますから」


「正直、我々もあきらめていたんですよ。

 あんなごった煮のうんこ映画なんて人気出るわけないと。

 どうせただの話題作りで終わると。アドバイスをきいてよかった」


「でしょう」


俺とプロデューサーは満員御礼の映画館にやってきた。

スクリーンにはどう頑張っても面白くない映画が上映されている。


そして、その上に――。




「でも、映画へのコメントを流すアイデアに入れただけで

 こんなにも映画が人気出るなんて思わなかったです」


「おもしろくない低予算のクソ映画ほど、

 コメントや空耳字幕で遊べるおもちゃはないですから」



映画に流れる視聴者コメントで劇場は爆笑につつまれていた。

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