対面

 早朝、居間の方が何やら騒がしくて目覚めた。

 同時にリリスとモードも目が覚めたようで、上半身を起こす。

「…聖騎士が朝からうるさいんだが…なにを喚いているんだ…」

「う~ん…まだ眠いのにぃ~…」

 不満を口にする二人。勿論私もそうだ。

「取り敢えず、安眠妨害の抗議だけはしないと、気が済まないわね」

 私の言葉に呼応するように、立ち上がる二人。無言で居間に続く階段を降りて行く。

 そして一足先に居間に到着した二人が固まった。

 その二人を押し退け、前に出る。

「…何これ?」

 居間は、葉書大にカットされた和紙が数多く部屋中に散乱されて、アーサー・クランクがブチブチ文句を言いながら、それを片付けている最中だった。

「朝っぱらから何やってんのよ?」

「俺が知るか!!早朝北嶋に叩き起こされたと思ったら、これを片付けて裏山に来い、とか言って姿を消したんだよ!!」

 意味が解らずとも北嶋さんの指示に従うアーサー・クランク。

 可哀想になり、私も片付けを手伝った。

 片付けている最中、モードが居間に飛び込んで来た。

「ねぇねぇ!変なお兄さん、お部屋にいなかったよ!狐さんもいなかった!」

「今、玄関を調べたら、良人の靴が無かった。恐らく外…裏山だと思う」

 何となく理解した。

「片付けはもういいわ。直ぐに着替えて裏山に行きましょう」

 何か感じる所があるのか、リリスが直ぐに同意した。

「聖騎士、ちゃんと武器を持って行くんだよ。モード、私達から絶対に離れてはいけないよ」

 無言で頷くモード。

「…そうか。今日なのか」

 アーサー・クランクも漸く察知したようで、着替える為に部屋から出て行く。

「さっ、みんなも着替えて。今日は忙しくなりそうよ」

「忙しくなるかな?」

「多分ね。北嶋さんが早起きしてまで段取りをしているんだから、結構な忙しさになるんじゃない?」

 成程と頷くリリス。モードを連れ、居間を出た。


 裏山に到着した私達は、中心で北嶋さんが、御柱様達に何やら指示を出しているのを発見した。

「おはよう北嶋さん。タマは?」

「変なお兄さん!ジャバウォックはどこ?」

 集まっている中、タマと飛竜の姿が見えないので聞いてみる。

「おー。起きたかお前等。タマとトカゲは俺の札をバラ撒きに行かせたぞ」

 やはりあの和紙は、北嶋さん特製の訳の解らない御札の残りか。

「なんで前日からやらなかったの?」

「面倒臭ぇから」

 これまた清々しい程言い切られる。

「で、何時頃来るんだ?」

 身を乗り出すアーサー・クランク。

「まだだな。取り敢えず朝飯食え」

 コンビニの袋いっぱいに買い込んだお弁当やお茶、お菓子等々をテーブルの上に広げる北嶋さん。

「朝食なら準備しますが…」

「柱に供え物を買ったついでだ。奴等の機嫌も取っておかなきゃな」

 言われて御柱様達を見る。

 御柱様の前には、それぞれの好物が置かれていた。

――終わったぞ

――こっちもだ

 丁度良くタマと飛竜が帰って来た。

「ご苦労。ほら、いなり寿司食え。トカゲはチキンな。つーかお前、朝っぱらから、よくそんな脂っこいもの食えるよな」

 パックをペリペリと剥がしてタマと飛竜に朝ご飯を与える北嶋さん。

――買って来たのはお前なのだが…

 困惑しながらもチキンを食べる飛龍。ともあれ、タマに聞いてみる。

「侵入禁止?」

 タマがいなり寿司をがっつきながら答えた。

――俺達に文句のある奴のみ侵入可、とか書いていたな

「何それ?」

 意味が解らず、北嶋さんに聞いてみた。

「まぁ、来りゃ解るよ」

 朝からカツ丼を頬張りながら答える。飛龍に与えたチキンに、負けず劣らず脂っこいと思うけどなぁ。

「私と戦った時の亜空間転送符ですか?それならモードは家に居た方が…」

 モードの肩を抱きながら、不安そうに異を唱えるリリス。

「どんな奴が来るか解らんからな。傍に置いた方が守りやすい」

「しかし、一部はお前が持っているじゃないか?最早モードに用は無い筈」

「人質にする事は可能だろ。特にお前には効果的だ。ロリコン無表情め」

 言われて真っ赤になるアーサー・クランク。

 対してモードは、サンドイッチを美味しそうに頬張っていた。

 そんなモードに北嶋が厳しい表情で話した。

「小娘。これが終わったらトカゲと別れるんだぞ。魔力に障って、病気がぶり返してしまうからな」

 目がジワッと潤んだモードだが、力強く頷いた。

「トカゲ、解ったな?」

――俺の存在で病気になるのは知っている。寧ろこの様な機会を設けて貰い、感謝している

 モードも飛竜も、別れには覚悟を決めているようだ。

 ずっと一緒に居たい。

 だが、それは叶わない。

 二人とも、それを以前から、漠然とではあるが思っていた。

 北嶋さんが切っ掛けを作った事により、それは現実となった。

 悲しいだろう。

 切ないだろう。

 辛いだろう。

 よくぞ決心したと本当に感心する。

 思わずモードを抱き締めたくなり、手を伸ばしたが…

「でも、会いたい時には会えるんだよね?変なお兄さん?」

 そう、離別とはまた違った事を聞いた。

「モード残念だが…」

 リリスが諭そうとした出鼻を挫くように、北嶋さんが口を開く。

「おー。要はずっと一緒だっつーのがマズい訳だからな。たまに会って遊ぶ程度なら問題無いだろ」

 私達の考えとは違った答えを発した。

「え?魔力に障って病気になるから、飛竜は魔界に帰るんじゃ…」

 飛竜に目を向けると、飛竜も目玉を見開いてウンウン頷いた。飛竜も当然のように魔界に帰るつもりだったようだ。

「え?じゃあどうするつもりですか?」

 モードが笑顔全開でリリスを見て話す。

「変なお兄さんが、リリスさんの家にジャバウォックを預ければいいんだって言ってたよ!」

「…リリスの家に飛竜を預けて、たまにモードの所に行かせるって事?」

 北嶋さんはペットボトルのお茶をゴブゴブと飲み干した後、さも当然のように言い放った。

「当たり前だろ?トカゲは俺に借りがあるんだ。銀髪の所で待機して、いざって時は働いて貰わないとな」

「え?じゃあ素直に此処に居ればいいんじゃないの?」

「銀髪は七王を失ったんだぞ。心を入れ替えたっても、命を狙う輩はまだ居るだろ?何かあったらどーすんだ?トカゲは七王の代わりにはなるだろ」

 凄く感心した!!

 まさにその通りだ!!

 北嶋さんは先の事をちゃんと考えていた。

 普段がアレだから忘れていたが、北嶋さんはそう言う人だ。

 今度は私の目が潤んでくる…

「良人…あなたは本当に素敵な御方です…」

 リリスは頬を染めて、北嶋さんを拝むよう眺める。

――俺は…またモードと会える…会ってもいいのか…

 飛竜も瞳を潤ませ、北嶋さんとモードを交互に見た。

「俺の新たな下僕として頑張れ。解ったな銀髪とトカゲ」

 モードからサンドイッチを奪って口に入れる北嶋さん。

「あーっ!!私のタマゴサンドっ!!」

「モグモグ…四の五の言うな小娘…モグモグ…お前にタマゴサンドは十年早い…モグモグ…」

 照れ隠しでモードを弄る北嶋さん。

 モードも理解しているのか、笑いながら奪い返そうと頑張っている。

「私のタマゴサンドあげるから許してあげて」

「俺のもやろう。だからそこら辺りで許してやれ」

「うーん…仕方無い。命拾いしたね変なお兄さん…え?」

 からかうように言ったモードだが、北嶋さんの目つきが変わった事を知り、言葉を詰まらせた。

 察知し、リリスがモードを引き寄せる。

「…少し距離があるかな?」

 私が呟いたと同時に、北嶋さんが立ち上がり、裏山から出るように歩き出す。

「待て北嶋。俺達も行く」

「私はモードと此処で待っているよ。問題無いですよね良人?」

「直ぐ戻って来るからな。問題無い」

 後を付いて来ようとした飛竜を制し、歩き出す。

――何故だ!?俺は…

――貴様は愚か者か?貴様の『二人の』主が此処で待つと言っておるのだ。仕えている者が主から離れてどうすると言うのだ

 タマがしたり顔をして飛竜の横を通り過ぎる。

――そ、そうか…そうだな…俺が浅はかだった…

 素直に反省し、項垂れる飛竜。

「ほお、なかなか見所があるトカゲだな。タマ、お前もあれくらい素直だったら、俺ももう少し楽できるんだがなぁ」

――妾程従順な者が居るか戯け者が

 怒るタマを宥めながら、私達は『客』を出迎える為に裏山から出た。


 裏山から出て、更に家から離れた大通りで待つ私達。

 暫くすると、多くの人間が私達の視界に入る。

「話には聞いていたけど…」

 嫌な汗が額から一滴流れ落ちた。

 町内の人達が、何かを中心に笑いながら此方に向かって来る…

 私達の家は悪霊の棲んでいた家と言われ、町内の人達は余程の用事が無いと来ないと言うのに…

「あれが魅了の効果か…」

 戦慄するアーサー・クランク。

 成程、あれでは攻撃できない。関係無い人達まで巻き添えにしてしまう。

 そして人垣の中心の人間、その姿が確認できる程接近して来た。

 美しい顔立ち。蒼い瞳。裏がありそうな、作ったような笑顔…

「あれがイヴ…」

「魔導師マーリンと…後は知らない顔だ…ん?リリス?」

 イヴと思しき人間の横に、リリスそっくりな女の子を発見する。今のリリスよりも若い感じだ。

 私達の姿を発見したか、イヴと思しき人間が歪んだ笑顔を私達に見せる。

 見下しているような、挑発しているような笑顔だ。

「手を出せるものなら出してみろ…かな?」

「そのムカつくツラ、間抜けヅラにしてやるぜ。タマ、後どれくらいだ?」

――後30歩程か

 緊張している私とアーサー・クランクを余所に、北嶋さんとタマは逆に挑発するような笑顔を向けていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 魅了を振り撒いて、この地区に住む人間を盾にして奴の家に向かう私と下僕共。

 如何にゲスとは言え、知った顔を相手に刃は向けられまい。

 その証拠に、遠くに見える奴と仲間は此方をただ見ているのみ。

 ああ、愉快だ。

 何もできず、己の無力をただ省みるのみの愚かな連中の顔を見るのは、とても愉快だ。

 いけない、いけないと思いつつも、つい顔が綻んでしまうじゃないか…!!

「おか…モルガン様、少し下品ですよ」

 カインはそう言って、わざとらしくハンカチを出して汗を拭った。

「仕方無いだろう。既に勝負は決したみたいだからな。多少の事は目を瞑ってくれ」

 笑いを噛み殺して話す私に、カインが溜め息を付き、首を横に振る。

「あれが困っている顔に見えるんですか。私には我々より遥かに余裕があるように見えますがね」

 要らぬ所で心配性だが、これも母たる私を案じての事。

 私は構わずに、歩を進めて行く。

 ほら、もう少しでハッキリと悔しがる男の顔が見えるじゃないか。

 心無しか歩みが速くなる。

 いよいよ奴の顔がハッキリと見える位置まで差し掛かったその時。

「おか…モルガン様、止まって下さい」

 カインが制止しろと言った。

 しかし、私は勢い余って一歩踏み出してしまった。

「あちゃあ~…」

 手で顔を覆い、落胆するカイン。

 と同時に、壁となっていた人間が私達から離れて行く。

「な、何?魅了が切れたのか!?」

 流石に驚く。

 そして、一人の人間が呟いたのを耳にし、更に驚く。

「うっ?北嶋さん家の傍じゃないか?俺は何故此処に?」

 その人間だけでは無い。

 殆どの人間が北嶋さんの家だ!と怯え、私達から散り散りに離れて、その儘駆け出して『逃げて』行った。

「な、何故だ!!奴は一体何をした!?」

 取り乱す程、混乱しそうになった。

 カインが地面に落ちていた紙を拾い上げ、私に突き付ける。

「恐らく、この紙の効果でしょうな。日本語で『俺達に文句ある奴だけ侵入可』と書いてある。いやはや、全くデタラメな御仁ですな」

 ただ紙に書いた文字で、私の魅了を凌駕したと言うのか!!

 膝が震えて地に上手く立っていられない…

 その私の前に、マーリンが壁になるように立ち塞がった。

「マーリン様…」

 マーリンは気持ち悪いウィンクを一度私に放ち、奴に杖を向けた。

「…一週間ぶりですね北嶋勇」

「針金頭か。近所迷惑になるから、全員連れてこっち来い」

 近所迷惑!!

 私がわざわざ訪問した事を、ただの近所迷惑だと言うのか!!

 ギリリと奥歯を噛み締める。こんな屈辱は、アダムにさえ覚えた事は無い…!!

「…近所迷惑になりませんよ。今から放つ術で、あなた達は一瞬で終わりますから」

 言い終えると同時に呪を詠唱する準備に入るマーリン。

 そうだ!!そこで殺してしまえ!!

 そう思うと同時に、奴の声がハッキリと耳に入った。

「だから迷惑だっつってんだろが針金頭あ!!」

 ヒュンと風を斬る音、そして何かが強く衝突するような音。

「ぷっぺらあああ~!!」

 マーリンの声が頭上から聞こえ、目を向けると、マーリンは吐血しながら宙を舞っていた。

 え?ならば私の目の前に居た壁になっていたマーリンは?

 そう思い、正面に顔を戻す。

「うっっっ!?」

 思わずたじろぐ。

 先程までマーリンが居た私の目の前には、代わりに奴が突き出した右拳に血を付着させ、飛んでいるマーリンに視線を向けていたのだ。

 私達の遥か後方に落下し、地面に激突するマーリン。

「手加減忘れた…完全に伸びてしまったな…」

 右拳の血を払うように振り、申し訳無さそうな顔をする。

「貴様…!!」

「久し振りだなクルンクルン。妹が待っているから裏山に来いよ。解ったかクルンクルン」

 そう言って無防備に背を向けて歩き出す男。

「誰が貴様の言う事など!!」

 拒否する私だが、同時に私達の後ろに何かが飛んで降り立ち、続く言葉を遮られる。

――勇が来いと言ったら来ぬか!この場で喉笛を咬み千切られたいのか人間!

 後ろに降り立ったのは九尾狐か…!!

 本気の殺気と妖気を全開にし、咆哮する!!

 その迫力に、思わず後退りする私達。

 その時、周りの景色が一瞬歪んだ。

「な、何だ今のは?」

 周りをキョロキョロと見回すも、特に変化は感じない。

 いや、違和感はある。

 生物の気配が全くしないのだ。

「亜空間転送符。あの一歩で、あなた達は北嶋さんが創った亜空間に入ったのよ」

 聖騎士の横に居た女が、笑いながら私に先程と同じ紙を突き付けて見せた。

「何か書いているようだが、生憎と日本語は読めないのでね」

 挑発するような女に、更に挑発するように返した。

「あらそう?じゃあ親切で教えてあげるわ。『俺達に文句のある奴のみ転送可』。 気絶した魔導師は兎も角、あの髪を剃っている人は、文句は無いみたいだけどね」

 言われてカインの姿を捜す。

 ……………………

「あの怠け者!!首根っこ引っ張ってでも、連れて来なければっ!!」

 憤り、歩き出すが、大気の壁のような見えない壁に当たり、前に進めない。

――敵は一度入ったら出る事は叶わぬ。大人しく裏山に行くがいい

 九尾狐が牙を剥き、威嚇しながらに促した。

「忌々しい…!!飼い犬の躾くらい、ちゃんとしろ!!」

 カインを待たず、妹の気配を追って仕方無く歩く。

「意外と素直ね?」

「いずれにしても、皆殺しにするんだ。問題はあるまい!」

 いきり立つ私の後に、クラウス・トイフェルが聖騎士と女を睨み付けながら続き、『彼女』も口笛を吹きながらその後に続く。

 道中奇襲しようかと思ったが、聖騎士は言わずもがな、女も隙など全く見せなかったので、それを断念した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 神崎達とクルンクルンの姿が消えた。

 亜空間に転送したって事だ。

 間違ってぶっ飛ばして、気絶させてしまった針金頭は、暫く起きそうも無い。

 だからこいつは仕方無い。無いが…

「おいツルッパゲ。何でお前は入らねーんだ?」

 クルンクルンの横で、何やらゴチャゴチャ抜かしていたツルッパゲが、平和そうに煙草に火を点けていたので聞いてみる。

「私?いやぁ、私は特にあなた達には文句は無いので」

 ニカニカしながら返事をするツルッパゲ。

「んじゃ帰れ。用事は無いんだろ?」

「いやぁ、帰りたいのは山々なんですがね。おか…モルガン様が後々うるさいんで」

「クルンクルンは今日死ぬから、うるさくならないぞ」

「その確証があれば帰れるんですがね。いゃあ、困った困った!」

 ハゲ頭をピシャリ、ピシャリと叩きながら愛想笑いを繰り返すツルッパゲ。

「んじゃ入って確認すりゃいーだろ?」

「あ、それもそうですな。でも、魔導師殿は宜しいので?」

 煙草を持った指で、ぶっ倒れている針金頭を差すツルッパゲ。

「気絶している奴にわざわざ気を遣うか面倒臭ぇ」

「おや、そうですか?ならば遠慮無く入らせて戴きますよ」

 そう言って、漸く亜空間転送結界にノコノコと入った。

 札の存在を知った事と言い、タマの威嚇に動じなかった事と良い、あのツルッパゲはなかなか面白い奴だ。

 満足して頷きながら、俺も結界内に入って行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「来たか!」

 モードを後ろに下げる。

――お前達は俺の後ろに

 ジャバウォックが私達の前に出る。

「気を遣わなくてもいいよジャバウォック。奴等の前を歩いているのは神崎達だよ。何もできる筈が無い」

 神崎を先頭に聖騎士と九尾狐が歩く。

 その後ろに、イヴ達。

 良人は…一番後ろで、何故か敵らしい男と、談笑しながら並んで歩いている。

――魔導師の姿が見えないな…

 確かに、英国国教会の魔導師マーリンの姿が見えない。一番警戒すべき相手だと思っていたのだが…

 考えている最中、丁度神崎達が私達と合流する形となった。

「神崎、魔導師の姿が見えない。何か策があるかもしれない」

「魔導師?ああ、北嶋さんが殴ったら気絶しちゃったから、そのまま放置して来たんじゃない?」

 そうか。

 気絶したのならば仕方無いな。

 納得して頷く………

「えええええええええ!?殴った!?気絶!?」

 仰け反って、思わず叫んだ。

 神崎は事も無げに頷いてみせた。

「確かに仰天するだろうが、魔導師マーリンが呪を詠唱した途端、北嶋が殴り掛かって、それで終わった」

 聖騎士も事実を淡々と述べる。

 終わったって!!

 ワンパンチで終わったって何っ!?

「リリスさん、あの牧師さん居なくて良かったね!」

 安心してニコーと笑うモード。

「確かにそうだ。そうだが…」

 モヤモヤ全開ではあるが、モードの方が正しい。

 釈然としないながらも、無理やり納得する。

 そうだ。それでいいのだ。

 誰も奴を責めはしない。

 クライマックスに登場しない事など、誰もせめたりしないっっっ!!

「気持ちは何となく解るけど、今はラスボスよリリス」

 神崎が私の肩を叩く。

 眉尻を下げ、微妙な表情の神崎も、私と同じ気持ちのようだ。

 私は頬をパンパンと叩いて気持ちを入れ替えて、イヴの方を見た。

 中心で偉そうにふんぞり返って私達を見下しているのがイヴ。

 右隣に、剣士か?そして左隣には…

「なっ!お、お前は!?」

 戦慄した。クライマックスに登場しない魔導師の事など、頭から一気に離れてしまった程。

「はぁい!!お久しぶりねぇ『お母様』!!』

 私に似た顔立ち。

 そして銀の髪と銀の瞳で、挑発するように笑う女。

「リリムか!!」

「やはり!!」

 神崎も思わず声に出した。

 イヴがニヤリと笑いながら私に指を差す。

「その通りだリリス!貴様がアダムの妻であった時に授かった魔物、リリムさ!!」

 私がまだアダムの妻だった頃、アダムとの間に生まれたのがリリム。

 男性を誘惑する術に長けた彼女は、魔物と呼ばれ、遠い昔の聖職者に悪魔の一人に『堕とされた』。

 確かに私の娘には間違いない。しかし。

「確かに驚いたが、今は私はただの人間。君にお母様と呼ばれる筋合いは無いな」

「あら冷たいねお母様。七王全てと契約して、残りカスしか残してくれなかった酷い人なだけはあるわ」

 ゲラゲラ笑うリリム。寧ろ母と思っていないのは彼女の方か。

「ならばやりやすい。君も召喚術に長けているのか?かつての母の後を追うとは、なかなか可愛い所があるじゃないか。見せて貰おうか?君が契約した悪魔をね!」

 挑発するリリムに挑発を返す。

 悪魔使役ならば、私は地球上の誰にも負けない。

 リリム如き小物に、私が遅れを取る筈は無いのだから。

「まぁ待てリリム。お前も久しぶりだろうが、私の用事はあの後ろだ」

 差されて。ギュッとしがみ付く力を強くするモード。微かに震えているのが身体に伝わってくる。

「その用事、保護者の私を通して貰おうか?」

 モードの肩を抱きながら、更に前に出た。

「保護者?保護者は私だ魔女。私は姉だぞ。なぁ、モード?」

 笑いながらモードに目を向けるイヴだが、その瞳は全く笑っていない。寧ろ敵意すら表している。

「…お姉ちゃん…私を殺す…の?」

「殺す?…ああ、殺すよ。既に一部が無くとも、お前は忌々しい私の妹だ。生かしておけば、また私に厄を齎すかもしれない」

 モードの震えが大きくなり、俯いた顔から水滴が地面に落ちた。

「イヴ!貴様は何故モードに固執する!?貴様の一部がモードに無いのは既に承知だろう!!」

 理由を訊ねるも、既に腹は決まっている。

 こいつは絶対に許さない。

 私はこいつを殺すと決めた!!

「当然だろう?妹に私の一部が移った事で、私の力は半減されたのだ。即ちアダムの脅威に晒される危険が増した事になる。尤も、お前が同時期に生まれてくれたおかげで、私は脅え損したがね」

「ふん、要するに腹の虫が治まらん、と言うだけか。つまらんな。だが、貴様の一部は良人が持っている。いずれにしても、貴様は欠落した儘だ」

 良人から一部を奪い取るのは不可能。

 恐らく、魅了で集めた者達に戦わせ、一瞬の隙を狙い奪い取り、自分は逃亡と言うプランだろうが、良人の亜空間転送結界は、敵は自力で脱出は出来ない。

「貴様はただの間抜けだイヴ。欠損部分を奪い、亡き者になったアダムに取って代わろうとしているのだろうが、大人しく隠れ住んでいた方が利口だったと後悔させてやる!!」

「私ならば全ての子を愛する事ができる!!あんな傲慢な男よりも遥かにな!!」

「残念ながら奴は覇権を欲してはいなかった。欲していたのは…自由!!」

 最早問答は無用。私は邪眼を開く。守るべき者を守る為に!

「クラウス!殺せぇ!!テュルフィングに全ての血と魂を与えてやれ!!」

 言われて剣士が剣を抜く。

 と、同時に、凄まじい魔力が剣から放出し、剣士の目の色が変わった。

「殺してもいいんだなぁ~モルガン…ぐっ…ケケケケケケあああ!!!」

 ノーモーションで突っ込んでくる剣士!!

「なっ!?速い!!」

 驚く間で、既に剣士の間合いに入っていた私達。

 振り下ろす刃はモードに向いていた。

「モード!!」

「いゃだああ!!」

 二つの絶叫と同時に、刃と刃のぶつかる音が聞こえた。

「せせせせせ聖騎士かぁ~?ぶっ、くくくくくく!!」

「魔剣テュルフィングとは…狂戦士か!!」

「アーサーあああ!!」

 今度は聖騎士に抱き付くモード。

「モード!少し離れて後ろに居ろ!!」

 エクスカリバーを払い、狂戦士を後ろに下げた。

「お前強ぇぇぇなあああ~…お前速ぇぇえなああああ!!」

 歓喜する狂戦士。

 あれ程荒れ狂っているのに、構えを作る。

「モードには指一歩触れさせん…来い!狂戦士!!」

 モードの盾になるように、その場で構える聖騎士。彼方は既に他者の入る隙間は無くなっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ツルッパゲと遅れて到着した俺。

 既に一触即発の状態になっている。おいてけぼり感があるが、まぁいいだろ。

「おー、無表情がやり合う寸前かぁ」

「おいてけぼり感が多々ありますが、まぁ仕方無いですな」

 ツルッパゲがハゲた頭をボリボリ掻きながら溜め息を付く。

 このツルッパゲ、なかなかどころか、かなり見所がある奴だ。この俺と感想が同じとは!!

「おいツルッパゲ。お前を認めてやろう。感謝しろ」

 称える俺!

 ツルッパゲも熱く胸を打たれているのか、口を半開きにして目が点になっている。

「そんなに嬉しいのか!そうかそうか!」

 バンバンとツルッパゲの肩を叩いた。当然俺もにこやかな顔で。

「本当に訳の解らん御仁ですな…」

 首を傾げるツルッパゲ。その時、トカゲが無表情と、クルンクルンの手下の寝不足か何か知らんが、目の下に隈を作っている奴との間に割って入った。

「邪魔すんなああぁあぁぁ……!!ぁあああ!あ!!!!」

「どけ!!ジャバウォック!!」

 ふむ、剣士同士、タイマンで蹴りつけたいと言う所か。

 邪魔したトカゲに、二人共キレていた。

――聖騎士!!モードを危険に晒す事は許さない!!俺がこいつを殺す!!

 トカゲは無表情にめっさガンくれて、殺気まで向けている。小娘が無表情にしがみついているからか。

「おいツルッパゲ。あの寝不足止めてやれ。二対一になっちまうぞ」

 優しい俺は、寝不足を止めるようにツルッパゲに促してやる。

 クルンクルンの術で遊ばれている、可哀想な奴なのには違いないからだ。

「ええ?何故私が?私にはそんな決定権は無いですよ!」

 首を振ってイヤイヤするツルッパゲ。

 同時にクルンクルンがツルッパゲを呼んだ。

「カイン!出せ!」

「出せとか言っているぞツルッパゲ。股間でも出すのかお前?」

「何が悲しくて股間を晒さなければならんのですか…出すのは、コイツですよ」

 ツルッパゲが腕を翳すと、五角形を逆にした魔法陣が浮かび上がった。

 その魔法陣が妖しく光る。

 ツルッパゲの頭に反射して、尚光りを増しているように見えた。

 要するに、眩しいって事だ。

「ふんんんっ!!」

 ツルッパゲの頭と目が、魔法陣に呼応するようにより一層光る。

 魔法陣から目と口がついたデカいミミズが、ビロロロローッと飛び出し、トカゲに襲い掛かった。

――ぬううう!?

 咄嗟に後ろに飛んで回避するトカゲ。そしてめっさ驚いた。

――ラムトンのワームだと!?

 デカいミミズはそのまま口をバックリ開いてトカゲを追う。

「ふははは!漆黒の飛竜、わざわざ貴様の為に用意した魔物だ!感謝せよ!!そして今までモードのお守り、ご苦労であった!!ふははははははは!!」

 高笑いするクルンクルン。その顔にムカッと来た。

「やっぱりクルンクルンムカつくなぁ。ハゲと同じなだけはある」

「全くです。ラムトンのワームも私が捕らえたと言うのに…」

 げんなりしながらボヤくが、慌てて口を押さえた。

「お前、苦労してんのなぁ」

 同情して肩を叩く俺。

「…おか…モルガン様以前にも、私は彼女『達』よりも10から20年、早く転生してきているんです。あなたの出現で、それに終わりが来た事には感謝します。しますが、私自身は、死ぬつもりは全く無い事はご理解願いますよ」

 俺に隠し事が通じないのを思い出したのか、諦めて開き直ったツルッパゲ。

 しかしまだ嘘がある。俺のは全く通じないってのに、往生際が悪い奴だ。

 取り敢えず動くつもりは無い意思表示なのか、その場にどっかと座り込んだ。

「狂戦士とワームか。聖騎士とジャバウォック相手には少し足りないな。君は混ざらないのか?イヴ」

 挑発するような銀髪に、クルンクルンが眉根を寄せた。

「足りないのは貴様等の手駒さ。リリム!!」

「はぁいお姉様っ!!」

 言われて銀髪レプリカがニヤリとしながらクルンクルンの前に出る。

 銀髪によく似ているが、少し年下っぽい。

 早い話が、俺の許容範囲外だと言う事だ。

「君が私の相手かい?」

 余裕綽々の銀髪。顎をしゃくって「来い」との意思を込めた。

「はあ?何を自惚れてんのアンタ?私の相手は『その他大勢』よ!!」

 銀髪レプリカがゴニャゴニャと何か唱えると、レプリカの背後の空間が歪む。

「やはり召喚士か。だが悪魔使役において、私より上の者は居ない!!」

「確かに私は召喚士…だけど、アンタとは格が違うのよ!!」

 笑いながら叫んだレプリカ。同時にドガンとバカデカい音がし、これまたバカでかい人間のシルエットがワラワラと現れた。

「こ、こいつ等は………!!」

 デカい、いや、デカ過ぎる人間の群れにビビったのが丸分かりの銀髪。

「はっはっは!!どぉ?お母様?アンタのチャチな悪魔達なんか目じゃないでしょ?」

 めっさ得意気なレプリカ。

 喚んだのは、一つ目の棍棒をもったデカい人間と、手がめっさあるデカい人間。しかも群れを成している。

「やっぱ亜空間転移しといて良かったわ。あんなん沢山出て来たら、近所迷惑で苦情殺到しちまう」

 心から安堵する。それを回避した俺の素晴らしさに、一人満足して頷いた。

「呑気ですなぁ…リリムが喚んだのは、古代ギリシャのティターン神族を滅ぼした功績を持つ、ヘカトンケイレスとサイクロプス達ですよ。近所迷惑というレベルなんかじゃありません」

 ツルッパゲに呆れられた。

「デカいから近所迷惑だろが。もしも道路とかぶっ壊したら誰に請求が来るんだよ?まさか災害復帰で国から金が出るとか思ってんのか世間知らずのツルッパゲが!!」

 尤も、修理費や慰謝料やらはクルンクルンに請求するが。

 ん?

 と言う事は?

 俺はクルンクルンの財政を困窮させない為に亜空間転移した事になる?

「亜空間転移しない方が、クルンクルンにダメージ負わせられたかもしれんな……」

 少しばかり後悔する俺に、ツルッパゲはやはり深く溜め息を付き、眉間に指を当てて疲れたように力を抜いた。

「はあっはっは!!七王を失ったアンタに巨人族を止められるかしら?あっはっは!!」

「く、ヘカトンケイレスとサイクロプスとは…成程、相手はその他大勢とはよく言ったものだ…!!」

 ビビる銀髪だが、デカい奴がいっぱいいるから何だっつーのってのが俺の疑問だ。

 その疑問にツルッパゲが答える。

「リリスは確かに悪魔使役に関しては最強です。私もおか…モルガン様も、上級悪魔は喚び出せない。と、言うか、喚べる上級悪魔は限られる。だが、別の者が、上級悪魔に勝る存在を喚び出せば問題は無い。と言う事です」

「ふん。んな事読んでいるっつーの」

 俺は鏡グラサンを指でコンコンと叩いて、その存在をアピールした。

「確かに、万界の鏡で視たのならば、巨人族の出現も知っているんでしょうな」

 それも承知とツルッパゲ。

「知らなくても、デカい人間如きがこの北嶋の敵になれるか」

 ツルッパゲの余裕に何かムカつく俺。

 その時、巨人族の一匹が銀髪に棍棒をぶん投げた。

 一つ目の巨人が投げた棍棒は、これまたデカい。直撃すれば死ぬ。

「リリスっ!!回避しろっ!!」

 小娘を抱きかかえて右にダッシュする無表情。

――避けろ銀髪銀眼の魔女!!

 トカゲは左にびょーんと飛ぶ。

「術が間に合わない!!避けるしか手は無いか!!」

 詠唱を中断して回避しようとする銀髪。

「逃げるのお母様?無様ねぇ!!あっはっはっは!!」

「仕方あるまい。魔女には逃避が関の山よ。あっはっはっは!!」

 アホみたいに笑う馬鹿女二人。

 だが、直ぐ様顔色が変わる。

 棍棒は銀髪を潰すどころか、地面に触れる事も無く、真っ二つに割れて砕け散ったからだ。

「な、なにっ!?」

「うわっ!!破片が降ってくるっ!!」

 自分で喚び出した巨人の武器で怪我しそうになる馬鹿女二人。

 そしてレプリカがめっさ怒って、棍棒をぶん投げた巨人を睨み付けながら怒鳴った。

「ちょっとアンタ!!危ないじゃないの!!武器くらい手入れしなさいよっ!!」

 しかし、怒られた一つ目の巨人はピクリとも動かない。

「む?」

 クルンクルンが異変に気付いた。

「な!?」

 レプリカが気付いた時、一つ目の巨人は、脳天から真っ二つに裂けていった。

 デカいから内臓もデカい。ドバドバと臓器が垂れ流されていく。

「サイクロプスが一瞬で真っ二つに!?」

「!あの遥か上空に居る何者かがサイクロプスを殺したのか!!」

 釣られて上空を見上げる銀髪と無表情。

「あれは…!!」

「九尾狐!!」

 タマが超速で駆け、その牙で一つ目をぶった斬ったのだ。

「デカいだけじゃタマには勝てねーぜレプリカあ!!」

 超愉快になりゲラゲラ笑う俺。雑魚がこの俺のペットに傷一つ付けられるかよ。

「く!たかが一体のサイクロプスを殺した程度で粋がるな!」

 レプリカが吠えると同時に巨人がワラワラ湧いて出る。その数100超か。

「足りるのかよ?たかがその程度の数で?」

「巨人族は太古のギリシャの神だぞ!しかもまだまだ喚び出せるんだよ私は!」

 自慢してんのか知らんが、痛々しいぞレプリカ。

「んじゃ、どっちが強いか教えてやれ」

 発したと同時に次々とぶっ倒れていく巨人族。

「な、何故!?九尾狐はまだ上空なのに!?」

 ムンクになりへたり込むレプリカ。

 その時、奥に引っ込んでいた神崎が姿を現した。

「どーもぉ。その他大勢です」

 嫌味全開で銀髪の前に立ち、レプリカに手を上げる神崎。

「もしかして…神崎?」

 若干引きつりながら腰を引く。そんなレプリカに指をビッと差す神崎。

「太古の神は確かに脅威。だけど、北嶋の六柱には及ばない」

 そう。今巨人をぶっ倒しているのは俺の六柱だ。

「タマと六柱で『その他大勢』をぶっ倒すって事だ馬鹿女共!!ゲラゲラゲラゲラ!!やい お前等、面倒臭ぇだろうが、雑魚の相手をしてやれ!!」

――ハッハー!!漸く俺様の出番か!!九尾狐に先陣を切られたのは気に入らねぇが、まぁいいさ!!

 黒蛇が張り切って巨人を燃やしていく。

――貴様がのろまだからだろう。妾の邪魔は許さんぞ

 タマが空を駆け、巨人の喉笛をぶち千切っていく。

――貴様等!俺の分は取るでないぞ!!

 虎が重力を倍々にして巨人を潰していく。

――なるべく犠牲を出さないようにしたいものだが、致し方ないな

 鳥が飛んだ後、巨人の首が落ちていく。

――塩は効かぬか。ならば生命の源を枯らしてやるか

 海神が巨人を干物ってか、ミイラにしていく。

――この程度の相手、某は必要は無いのかも知れぬが、これも主君の命令…

 亀が矛を薙ぎると、バッタバタと倒れていく。

「なぁあああ!?何ですってぇ!?」

「な、ならば神崎を魅了で取り込んで…」

 魅了を仕掛けようとした瞬間、ガッと開いたデカい口が、それを牽制した。

「う、うわっ!!」

 思わずたじろいだクルンクルン。

――尚美さんには貴様の術など通用しないが、自分の目の前で、尚美さんにおかしな術を仕掛けようなどと思わない方がいい…

 キングコブラが神崎の後ろで、巨人族とクルンクルンを牽制したのだ。

「ゲラゲラゲラゲラ!!おらレプリカ。100で足りないだろ?遠慮しないでもっと喚べ!!」

 ガッツリ挑発する俺。

 レプリカもクルンクルンも、俺にハッキリと敵意と殺意を向けたのか解った。

「ふ!ふざけんな糞野郎!!そんなに大群が望みなら、いくらでも喚んでやる!!」

 キレたレプリカがゴニョゴニョと詠唱を始めるが!!

「ぐあ!!」

 詠唱を止めて、額を押さえるレプリカ。コロンと石が地面に落ちた。

「痛かった?ゴメンね」

 石を手のひらでポンポン放りながら、神崎がシレッと言い放つ。

 デコを押さえて涙目になり、神崎をギラッと睨むレプリカ。

「か、神崎!!」

「別に増やしてもタマや御柱様には全く影響無いんだけどね。太古の神を悪戯に滅ぼす事はさせたく無いのよ」

 ぽーいと持っていた石を放り、レプリカに向かって印を組んだ指を向ける。

「おいでケツの青い小娘。遊んであげる」

 ブッと噴き出した俺。更に追い打ちの挑発を仕掛けた。

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!神崎、よーっく教育しろよ。その糞ガキの馬鹿女をなぁ!!!」

 笑い転げて腹痛い。神崎もナイス挑発をするようになったもんだ。

「躾くらいはしてあげるわよ。大人としてね」

 俺に向かって親指をグッと突き出す神崎。

 対して唇を噛み、ブルブル震えて神崎を睨み付けるレプリカが、めっさウケた。

「か、神崎、そいつは私が…」

「んーん。リリスにはボスキャラを譲ってあげる。どっちが格上か、キッチリ教えてあげて」

 言われて銀髪はクルンクルンの方に、首をグルリンと向けた。

「…それは面白いな。人類の母の力、是非見せて戴こうか?」

「ふ!貴様如き魔女に、私程高貴なる者がわざわざ相手をするか!!自惚れるな!カイン!!」

 クルンクルンが此方に顔を向ける。

「ご覧の通り、この御仁に張り付かれておりますからな。おか…モルガン様が、私の代わりにお相手してくれると言うのなら可能になりますが」

 俺に親指を向けるツルッパゲ。

「俺に指差すなツルッパゲっ!」

 ベシッとツルッパゲのハゲ頭をパーで叩く俺。

「痛い!!…ど、どうしますモルガン様?」

 俺の赤い手形をハゲ頭にクッキリと残しながら、クルンクルンに聞き返す。

「…っ!マーリンがだらしないから、私が余計な苦労をするんだ!!」

 俺達に背を向けて、銀髪と対峙するクルンクルン。

「流石に良人と戦おうとはしないか。賢明だ」

「この私が直々に相手してやろうと言うんだ!感謝して死ね!」

 めっさガンくれるクルンクルンだが、全く怖いとは思っていない銀髪は、余裕の笑顔をクルンクルンに向けていた。

 

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