女王の言い分

「ハサン!」


 知らず、ターヒルは声を上げていた。それに気づいて、他の仲間たちも窓に寄ってくる。そして、ターヒルの巨体の間から窓の外を見、彼らもまた、驚きと興奮の声を上げた。


 ハサンは、というより、ハサンを乗せた鳥が近づいてきた。十分窓の側まで近づくと、ハサンは器用に窓に降り立ち、そして転がるように室内に入ってきた。仲間たちがわっと取り囲む。ターヒルは驚き呆れて、無駄に腕を上下させていた。


「――一体どうしたんだ、おまえは……。それに外のあれは……」

「おれだってよくわからないよ」


 ターヒルのまとまりのない質問に、ハサンはあっさりと答えた。「おれも何が起こってるんだかわからない。おれは別の部屋にいてね、閉じ込められてたんだ。でもそしたら、ネズミが外を見るようにと教えてくれて。それで見たら、巨大な鳥たちがいただろ。おれは思ったんだ。これに乗って、ターヒルたちを探しに行こう、と。そして探したら、みんなで鳥に乗って、船まで戻ればいい」

「でかしたぞ、ハサン!」


 アジーズが大きな声を出した。豪快に笑いながら、ハサンの背中を叩く。「いや、おまえは本当に――どうしてなかなか大したものじゃないか!」

「しかし、そんなに上手く……」


 ターヒルは半信半疑であった。けれどもそれをハサンが遮る。


「四の五の言ってる場合じゃないよ。これしか方法はない。ここは――なんだかよくないところのような気がする。船に戻ったほうがいいよ。この島から逃れられるかどうかはわからないけど。だから、まずはさあ、鳥に乗って……。乗り心地はそんなに悪くないよ」

「ここはハサンの言う通りにしよう」


 アジーズが強い調子で言った。そこでとりあえず、話は決まった。一同は、順に窓から鳥に乗り移ろうとしたが――しかし邪魔が入った。急に扉が開かれた。「お待ちなさい」ときつい調子の声が飛んだ。一同は振り返った。そこには、この島の女王が、多くの兵士たちを連れて、立っていたのだった。




――――




「お待ちなさい」


 女王は再びそう言って、室内に入ってきた。瞳が怒っていた。なんとしてでも彼らをここから出すまいという意志が表れていた。


「あなたがたをずっとここに留めておこうとは思っていません。ただ……お願いしたいことがあるのです」

「お願いしたいこと、とは?」


 代表して船長が聞いた。女王は落ち着いてそれに答えた。


「――返してほしいのです。わたくしのものを。奪われてそのままになっているものを。それを持っている人間がこの部屋にいるのです。それは――」


 女王はすっとハサンを指した。その場にいる人間の、全ての視線がハサンに集まった。


「お、おれが? 何かしたのか?」


 うろたえるハサンに、女王は静かに言った。


「あなたは、珠を持っていますね。真珠に似た、白く光る珠を」

「ああ、持ってはいるが……」

「それはわたくしのものなのです。こちらに返しなさい」


 ハサンは首からかけている小袋を引っ張り出した。中を開けて、掌に珠を転がす。


「ハサン、どうしたんだ、それは……」


 尋ねるターヒルにハサンは事情を話した。海賊に襲われたときのこと。彼らが落とした小箱を開けて、その中にこれが入っていたこと。そうしてハサンは続けた。


「誰のものかわからなかったから……ほら、海賊が持ってるものは盗品かもしれないし……。だから、おれが、そ、そう、持ち主が現れるまで預かっておこうかな、なんて……」

「持ち主は現れました。わたくしです。返しなさい」


 女王はまたもきつく言ったが、ターヒルとアジーズは何か別のことが気になっているようだった。


「この珠……ひょっとして……」

「……ああ、そういうこともあるかもしれないな……」


 二人は顔を寄せてひそひそと何か言っていたが、ハサンのほうを向くと、ターヒルが語り始めた。


「ハサン、その珠は恐ろしいものかもしれないんだよ――」

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