体育祭1 部活動紹介

体育祭…それは工業生にとっての戦。

我こそが最強の科だと証明するために全身全霊で戦う場所。しかしここではその争いについては触れない。ではどこに焦点を当てるかと言うと、部活動紹介と部活動対抗リレーについてである…


「もうすぐ体育祭があるので、部活動紹介の準備と練習をしたいと思います。で、どういうことをするかと言うと、全員で袴を着て入場してレギュラーメンバー3人が活動内容についてアピールしてもらいます。その間に他のメンバーには即席の的を作って貰ってレギュラーメンバーにそこに向かって矢を1人2本放ってもらおうと思います。」


体育祭は外部に向けて自分の部活をアピールする数少ない貴重な機会である。どの部活も新入部員獲得をできるかもしれないチャンスなため全力を出す。普段目にすることのない弓道を実演して見せることで少しでも興味を持って貰う狙いである。

準備運動が終わり早速具体的に誰が何を持って入場するか、的をどう設置するかの話し合いが始まる。


「取り敢えずレギュラーメンバーは原稿考えて!的とかは俺らで何とかするから。」

「俺は的持って入場するわ。」

「楽なの選ぶなよ、じゃんけんで決めようぜ。」

「俺、何も持ちたくない。てか部活そこまで参加してないし部活動紹介参加せんでもいい?」

「「「それは許さん」」」


みんな不人気の畳を運ぶ係を押し付けようと躍起になっている。その間に山中先生とレギュラーメンバーは過去の原稿を参考に、去年の実績やアピールポイントを考えて原稿を作成していく。

遊び呆けているように見える部活だが、真面目に練習している人は自主練習などをよく行っているため、決して弱小高校ではない。

……真面目に練習しているのは約3割程度だが。


誰が何を運ぶのかをじゃんけんで決めた人達は山中先生に段取りを教えて貰いながら実際に設置をしていく。各部活動に与えられた時間は5分。弓道の実演時間を考えると、時間に余裕が無いため何度も繰り返し練習をする。

しかし最もプレッシャーを感じているのは弓道の実演をするレギュラーメンバーである。

万が一矢が畳の外に行くとグラウンドの外まで飛んでいってしまうためだ。

客がいない方向に向かって矢を放つとは言え、どうなるか分からない。普段と全く違う環境で、絶対に外せない戦いなため練習を念入りに行う。


向かえた体育祭当日、昼食休憩の後に部活動紹介のために色々な人が着替える。


「いよいよ本番か、緊張する~。」

「原稿噛んでもいいけど絶対に矢外すなよ!」

「お前もな!」


笑いながら会話はしているが、いつもより余裕がないのが他のメンバーに伝わってくる。

とは言え回りの人が言えることは何もなく、信じることしかできない。そして、ついに弓道部の順番が回ってきた。


全員で小走りでグラウンドの中心まで行き、事前の取り決め通りにレギュラーメンバーが部活動をアピールし、他のメンバーで的を設置する。

ちょうど的を設置し終えた頃にレギュラーメンバーが原稿を読み終え、緊張の瞬間が訪れる。

先頭の人から順に矢を放っていくが、的に当たる当たらないよりも畳に刺さるかの心配を全員がする。


パァン、パァン、トスッ…っと新品の的に当たる音や、畳に刺さる音が耳に入る。

全部の矢が的に当たることは無かったが、きちんと畳の中に矢を当てることはできた。

最後の矢が放たれ、畳に当たった時にはレギュラーメンバーから、「ふぅ」っと息を吐いた音が聞こえた。


全員でグラウンドから退場した後、全員でハイタッチをした。

部活動紹介は無事大成功で終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る