落とし穴

弓道部には新しいブームが来ていた。それは落とし穴を作ることである。

ことの発端はとある日曜日…


「落とし穴作って誰か落としてみようや。」

「いいやん、おもろそ!」


突然の平沼の提案に伊坂が乗る。

なぜ唐突にそんなことを思い付いたのかは分からないが、面白いことに貪欲なのが弓道部。いや、若者全体に言えるこもかもしれないが…


安土あづち(弓道の的を設置するための土の壁)を整備するためのスコップを早速取り出し、練習の邪魔にならない位置に穴を掘り始める。


「どのくらい掘る?」

「ちょっと驚くくらいでいいんじゃね?」


ノリだけで決めたため全てが適当である。

5~6cmの穴を掘った後、落ちている小枝を穴が埋まらないように丁寧に刺し、その上に枯れ葉を敷き土を軽く被せる。


「…これ土の色回りとか違うし、隙間から葉っぱ見えるし不自然じゃね?」

「でもこれ以上やったら木の枝折れて落とし穴壊れそうじゃない?」

「それもそうだわ。ならこのまま月曜日まで置いとく?」

「そうしようか。」


こうしてこの日は解散になった。雨が降ったら台無しになったかもしれない低クオリティだが、幸いなことに雨が降ることはなかった。

翌日、2人にとって待望の部活の時間てある部活が始まった。

準備体操が終わった後、レギュラーメンバーから弓を引き始める。その合間を見計らって平沼がサボり組の人を「ちょっとこっちに来て。」と、まっすぐ進めば落とし穴のある場所を通るような位置から呼びつける。

呼ばれた人は平沼の近くまで歩いて行く、落とし穴のある場所を避けて。


「何でここ避けたん?」

「いや、明らかにここだけ色々おかしいやろ!」


落とし穴の位置はバレバレであった。

いいからここに立てと説得(?)する平沼と抵抗するサボり組。

やがて折れたサボり組が落とし穴のある位置に足を踏み入れると、木の枝がパキパキッと折れ、無事落とし穴が作動する。

落とし穴を踏んだ者は思ったよりも穴が深かったらしく、本気でびっくりしていた。

それを見ていた他のサボり組は面白がり、色々な場所に落とし穴を作り始めた。


しかしここで一つ問題が発生した、落とし穴に使える木の枝が足りないのである。

木の枝にある程度の大きさがないと穴を埋めれない上に、土を被せるとその重みに耐えきれず崩壊してしまう。

サボり組は考えた結果、小さな落とし穴を色々な場所に作ることにした。小さな落とし穴であれば大きな枝が無くても作れるからである。


小さな落とし穴を3~4つ作った辺りで再び問題が発生する。落とし穴を作った場所だけ明らかに色が違うため、パッと見で気付かれてしまうのだ。

どうしても人を落とし穴にかけたいサボり組は、何もない場所の土を掘って埋めることで土の色を落とし穴のある場所と同じ色にすることで、偽物の落とし穴(?)を作ることに成功した。

その成果もあり、落とし穴を踏む人はいた。しかし小さな落とし穴なため作動しなかったり、作動しても「ん?」となるだけで反応が薄いためサボり組も飽き、このブームは1週間もしないうちに消え去った。

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