早気
今、弓道場でレギュラーが練習をしている。高校の試合は5人団体が多く、普段の練習でも試合と同じように5人が並んで練習していて、今一番手の北村という太った選手が弓を引いている途中だ。彼はその見た目から一部の人にカビゴンと呼ばれている。弓道場にバシュッと矢を放っ音が響いた。
「北村、お前は早気じゃけえそれを治せ。」
山中先生に練習中に唐突にそう言われた。しかし北村も自覚があったので素直に早気を治す練習をしようと思った。
早気とは弓を完全に引ききった時にすぐに矢を放ってしまうことである。すぐに矢を放ってしまうので、『会』という狙いを定める動作がなくなり、矢が的に当たらなくなるのだ。しかし早気とは一種の病気で気持ち一つで簡単に治るものではなく、的を見ながら弓を引くと半分無意識に矢を放ってしまうので毎日の地道な練習が必要だ。治さずにいるといずれ矢が的に当たらなくなり、そのことに対する慌てからさらに早気になる、そしてさらに当たらなくなる。そんな悪循環が生まれてしまう。そのため、早気になったがために弓道を辞めてしまう人がいるほど厄介なものだ。
すぐに早気を治す練習に取り組んだが、すぐに治るものではないので悩んでしまう。そこで、元々早気だった平沼にアドバイスを聞いた。
「俺がネットで調べたら好きな言葉を頭の中で3回言ったらいいらしいで。俺はネットにアイスクリームって書いてあったけえそれでやったけど。」
「ふーん、ちょっとやってみる。」
弓と矢を準備して弓を引きはじめる。弓を引ききると最初よりは『会』が長かったがすぐに矢を放ってしまう。
「ちゃんとアイスクリーム、アイスクリーム、アイスクリームって頭の中で言ったか?」
「いや、やろうとしたけどすぐに離してしまう。じゃけえアイスクリー『バシュ』ってなる。」
「やば、それかなり重症で。」
「うん、まじでどうしよ。」
「俺はアイスクリームのやつをずっとやりよったら治ったで。」
「まじで?じゃあこれからそれ毎日やってみるわ。」
彼はその後、多くの日数をかけて早気を完全に克服することに成功した。頭の中でアイスクリームと3回言う方法だけでなく、他にも多くの方法を調べ、自分なりに努力をした結果だ。彼はアイスクリームと頭の中で3回言う方法について笑いながらこういっていた。
「アイスクリームって頭の中で言いよったら毎回変な場所でとぎれて終わった後に振り返ってよく笑いそうになった。」と。
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