防空壕

 夏休みに入ってずっと練習をしているとさすがにレギュラーだって遊びたくもなる。もちろん練習はサボらないが弓道場で出来ることも限られてくるし、先生に少しでも目をつけられることはしたくない。そもそもこの高校の弓道場は右隣はフェンスの向こうにサッカー場、左隣はフェンスの向こうに空き地が、前は山に面していて後ろはフェンスの向こうに畑があり、ただでさえ遊べることが少ないのだ。山の一部を削ったのか、弓道場に面していている山は土壁のようになっている。それを見て削れそうだと思った平沼は、山中先生が草刈りのために弓道場の掃除道具入れに入れていた鎌を使い、土壁が掘れることを確かめると、壁にモアイの顔を掘った。それがかなりリアルだと好評であった。それを見た音丸は

「あれ?洞窟とか掘れるんじゃね?」

と思い、洞窟を掘り始め、それがいつしかブームとなった。

「上の方掘って。」

「中の砂出すの手伝って。」

 

 いつしかそのような会話がよく聞こえるようになった。空いた時間に彼らは弓道場にあった鎌などを使ってせっせと穴を掘り始めた。部活の空き時間や部活が終わった後、さらには日曜日の自主練の休憩時間に彫る者までいた。この洞窟を掘ることに最もはまったのは国清で、とにかく暇があれば洞窟を掘っていた。


「ちょっとうるさいんやけど。」

「このくらいの音で集中できんのんなら試合で勝てんで。」

「うっせえ、黙れ。」

というような会話毎週日曜日に交わさるようになった。少し真面目な人にうざがられていたらしい。


 多くの人の努力の末、もともと小さかった穴がだんだんと大きくなり、人が1人入れるほどの大きさになった。それだけでは飽き足らず、さらに穴を広げていくと人が3人程なんとかは入れる大きさになった。それは誰がそう呼び始めたのか分からないが防空壕と呼ばれるようになった。山中先生がそれを見つけたときは苦笑いをしていた。山中先生はサボり組の人達がやったものだと勘違いしていたのだが、誰も真実を伝えることはなかった。


防空壕を掘るブームが過ぎ去るとそこはサボり組がサッカーボールやハンドボールなどの遊び道具を入れる場所となった。いつしかほら穴と呼ばれるようになり、弓道場にあるのが当たり前の存在となっていった。







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