トマト

 弓道場の端には小さな畑が作られている。それは顧問の山中先生が作ったもので山中農場と呼ばれていて、山中先生の実家が農家だから作られたらしいが関連性がいまいち分かっていない。部員は農業魂が炸裂したのだと勝手に解釈している。ちなみに水やりや草抜きは朝の道場の準備の時間の部活の仕事だ。


 ある日主将の安川がトマト植えてあるトマトを見てみると赤くなっているものが3つほどあった。

「これを的にして当たらんかったやつがこれ食べようや。」

普通そんなことはしないのだがそれを止めようとする常識人はここにはいない。むしろ賛成の声があがっている。

 普段の的よりもかなり小さく、なかなか当たらなかったが5分後に主将の安川がトマトを射抜くことに成功した。

「まじかよ。」

そう言ったのはレギュラーの1人である平沼和成である。

「やば。」

もう1人は副主将の三上だ。

「お前ら頑張れ~。」

当たった安川は無責任に応援を始める。

「くっそ、当てちゃるいや!」


 そうなんでも上手くいかないのが現実だ、その2分後に副主将の三上がトマトを射抜きこの戦いは幕を閉じた。しかしトマトを射抜いた2人の矢はトマトの汁でぬれていた。さらに刺さったトマトを取るときに手までぬれて少なからずショックを受けていた。平沼も山中のトマトを食べる準備を始める。トマトを洗い、すぐ隣に水筒を開けた状態で待機させて黙想をして心を沈めていた。


 2人がトマトを射抜いた矢と自分の手を念入りに水で洗った後、いよいよ山中先生のトマトを食べる時が来た。2人が真剣な眼差しで見つめる中、少し緊張した様子の平沼がトマトを手に取る。そして、それをゆっくりと口に含み食べ始める。


 「味薄っ!まっず!」

そう言いつつ急いで飲み込みすぐ隣の水筒を手に取り流し込んだ。

「どうだった?」

「あれは食べ物じゃない。まじで不味い。」

そしてまた水筒を持ちがぶがぶとお茶を飲み始めた。

「だ、大丈夫か?」

「おう、何とか…。」

絶対に山中先生のトマトは食べまいと心に決めた3人だった。


 後日、植えていたもう1つの野菜であるキュウリを女子はもらったそうだが副主将の三上は全部別の女子に渡したそうだ。キュウリをもらった女子に味を聞くと、

「味がなかった。市販の100円のキュウリの方が何倍もおいしい。」

と言っていた。山中農場の野菜はとことん不評であった。

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