第三十短編 本当

「あの公園で宇宙人を見たんだ」


 その少年は僕にそう言ってきた。まあ宇宙人なんているはずもないので、僕は当然信じていなかった。


 しかしその少年の目を見るとどうだ、宝石のようにきらきらと輝いていてまるで嘘をついているようには見えない。


「ほう、それは本当かい?」


 暇でもあったし、僕はその少年の言葉を信じることはなくとも疑うことにした。


 少年は「ついてきて」とせかすように僕の手をぐいぐい引いて、その公園があるのであろう場所へと歩き出していく。


 行動力があることはいいことだとは思うのだが、見ず知らずのおじさんの手を引くというのは気を付けた方がいいのではないか? 僕は変なことをする気はないので問題ないが。


 少年はそんなことは欠片も気にしていないようで、どんどん前へ進んでいき、宇宙人を見たという公園に到着した。


 そこにはなにも無かった。宇宙人はもちろん遊具さえも。砂場とベンチだけの公園と言えないような光景だった。


 ここは近くに高層マンションがあるせいで、日中は影が掛かりっぱなしだった。この薄暗さを見ると宇宙人がいても不思議ではない気がする。そのくらいに寂しい空間だった。


「ここだよ。ここ」


 そう言って少年は公園の奥の方へ行き、こいこいと手招きした。


 少年が示した所にはなんだかよく分からない絵があった。多分、子供の落書き。彼が描いたのだろうか。


 「さっきここに宇宙人がいたんだ。これはそいつが描いたんだ」と言う彼はとても真剣だった。「ほんとだよ」と念を押してきた。


 その宇宙人がどんな姿をしていたかとかいろいろと熱心に話し続けた。その話を聞いているうちに誰も信じてくれなかったと彼は言った。


 しょぼくれている少年を見て私は思った。


 多分、君の中にはいるんだろうね。宇宙人が。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

800文字詰め短編集 稲庭仁人 @ruiwatanabe2000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ