第十七短編 余命
日本にはお盆という日がある。亡くなった人が迎え火で迎えられ、二、三日親族たちと過ごしたら、送り火で帰っていくのだ。今年もまたその日が来た。
「相生さん帰られないのですか?」
「ええ」
若くして亡くなった相川さんは早く家族の顔を見たいようでそわそわしていた。僕はもう何回も帰ったので今年からもう帰らないつもりだが、彼を見ると多少は帰りたいという気持ちが湧いてくる。
彼の番号が呼ばれ、待ってましたと言わんばかりに相川さんはアナウンスで指定された場所まで走って行った。おそらく胡瓜の馬でも全速力を出して帰るのだろうな。
苗字のこともあって彼とは家が近い。毎日彼の家族の話を聞かされていたので、その家族愛はよく知っている。彼が帰ってきたら土産話でも聞こう。
さて彼の見送りも終わったし、そろそろ帰ろうか。役所を出てタクシーを呼ばずに歩いて帰る。今日はなんとなくそういう気分なのだ。
死んだようにがらがらな街はとても静かで、普段は賑やかな分、少し寂しさを覚えた。人通りのない大通りを歩いていると、若い女性と高齢の男性が仲睦まじくして歩いているのを見かけた。
はたから見ると仲の良い孫とおじいちゃんと言った感じだが、あれは夫婦だ。おそらく女性の方が早くに亡くなってしまったのだろう。この世界では老いることはない。だからああいった夫婦がまれにいるのだ。
「番号1754826番さん」
突然、郊外アナウンスで自分の番号を呼ばれた。一瞬戸惑ったがはっとして、僕は番号の後に指定された場所へ向かう。年甲斐もなく全力で走った。
そこには役員であるスーツの男性と、腰の曲がったおばあさんがいた。おばあさんはしわくちゃな顔をさらにくしゃっとすぼめて笑った。釣られて僕も涙が零れそ
うになるも同じく笑った。
「お帰り」
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