第十五短編 竹とんぼ
あるテレビアニメの曲の歌詞に「空を自由に飛びたいな」というものがあった。小さいころ私はそのアニメにはまり、実際に空を飛んでみたいと思うようになった。将来の夢が発明家になったのだ。
それから随分な時が経ち、今この時、ついにそれが叶う時が来たのだ。最初はただただあの道具で空を飛ぶという純粋でいてあいまいとした夢だった。成長するにつれ諦めようとした。失敗もした。私の夢を否定する奴がいた。諦めさせようとしてくる奴もいた。
家族も、恋人も、友人も、持ち前の頑固さで振り切ってきたのだ。老いにも離れていく奴らにも目もくれず私は全てを覆う夜みたいな道を走ってきた。その自分勝手な努力が報われる。
「先生、準備完了です」
本日は晴天。絶好の実験日和だ。心臓に響くカウントダウンが刻まれていく。
「ゼロ!」
激しい風圧と共に地面が離れていき、草原の草が躍る。この感覚には少し覚えがあった。今までで一番飛んだ実験だ。
装置の形は秘密道具をそのままリスペクトしたものだったので、五メートルくらい飛んだら私の体重を支え切れずに少しの頭皮を残して私は落ちてしまった。あれは痛かった。思えばあの実験が原因で頭頂部から剥げていったのか。あの実験はやめておけばよかったな。
意識を現実に戻し、周りを見る。下の方に杉の木が見えた。上にあるモーターの様子を見るがいっさい不安な個所はなかった。一安心し、落ち着いて景色を堪能する。雲一つない青い空に一一羽の鳥。それはまるで絵画のようでとても美しかった。自然と涙が頬を伝う。
ガガ、ガッと不快な音が耳に届いた。音源がある上を見ると、鳥がいた。さっきの鳥だ。鳥がプロペラに巻き込まれて死んでいた。その血が滴り、涙の上を進む。
プロペラは不安定に周り、機体が傾く。
その時の景色は人生で一番きれいだった。
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