第十四短編 ミキ

 昔からの好きな人がいる。もう顔も名前もうろ覚えになっているほど昔の話だがね。それでも彼女の生きざまは覚えているよ。心に刻んでいる。


 僕と彼女が出会ったのは戦争の真っただ中で、皆苦しい生活を強いられていたよ。僕はまだ幼かったから集団疎開っていうのをしていて、ようは学校で山奥の村とかに非難をしていたのさ。


 彼女は疎開先にいた村長の一人娘でとても強かな人だった。僕らより年上だったからなのかなあ。僕らを家族のように慕ってくれたんだ。丁度、姉みたいな感じでね。

 大人にも逆らったことがあったっけ。その時の後ろ姿はとにかくかっこよくて、当時の子供たちの初恋を一斉に奪い去ったよ。当然僕のもね。


 だけどある日に彼女は流行り病で目を覚まさなくなった。他の大人たちや同級生もやられてね、僕らは彼らを一人ずつ埋葬した。お坊さんなんていなかったからね。遺体を埋めて南無と拝むだけさ。そして遺体と一緒にそれぞれが大切にしていた物を埋めた。これからの旅のお供にって。


 彼女には桜の苗を植えてあげた。物々交換で手に入れたものだ。

「花は直ぐに散るけど幹はずっと残るから好き」とは彼女の言葉だ。


 植えた桜は彼女のようにたくましく育った。平和になった世でもそれはちょっとした名所になっているほどにね。


 彼女は春になると強かなさくら色の花を咲かす。それを多くの観光客が花見に来て毎年大賑わいだ。彼女は賑やかなことが好きだったからね。毎年楽しそうにしているよ。


 それも見どころだけど、僕はもう少ししてから花見をするんだ。花が散って客が来なくなった時期に独りでね。彼女が花じゃなくて幹が好きだったって理由もあるんだけど……、


 なにより好きな人との時間は二人きりで過ごしたいだろう?

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