第六短編 渇望する喉
この喉の渇きを自覚し始めたのはいつ頃だっただろうか。
この渇きを潤す手段を知らない。本人のくせして何故渇くのかも分からないのだから当然だろう。しかしこれは年を追う事にひどくなっていき、成人した僕は村から都市へ行った。これを満たす手段を探したかったのだ。
都市では運よく就職する事ができ、お金を貯めて色々と試したが何も変わらなかった。それどころか村にいた時よりも勢いよく渇きが強まっていくのだ。早く何とかしなければならない。僕の何所かがそう言った。その言葉に焦りを感じ、僕は会社を休業して世界を回り、これを解決する手段を探す事にした。
しかし、旅の始めの飛行機でそれは起こった。まずは北へ行こうと乗った飛行機が航空中に揺れ始めたのだ。僕も乗客も必死に座席にへばりついて狂騒に包まれていた。
気を失っていたのか気が付くと真っ白い世界だった。周りを見渡すと乗客たちもまばらに目を覚ましていた。意識がある人たちで手分けして散策していると傾斜が多く、山である事が分かった。飛行機が墜落したのだから必ず捜索隊がやってくると皆信じて無事だった非常食を少しずつ食べて生きながらえていた。
ついにそれが底をつき餓死者が出始めた。そして死に怯える中ある人が提案をした。死んでしまった人を食べようと。もちろん僕を含め大半の人が反対した。しかし生きるためと日に日に反対者は減っていき、人肉を食べる運びになった。
分けられた肉を見ると喉が鳴り、美しいと思ってしまった。高級品を扱うように肉を口に運び、舌で絡めとるように食べる。肉は冷えていたが、口の中で少し溶けいい香りが鼻を満たす。噛むたびに口の中で血の甘さが広がり、僕の喉を潤していく。
こんなに美味しい物は食べた事が無い。僕は食べるのに夢中になり、気が付くと辺りには人がいなくなっていた。
喉は潤っていた。
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