第五短編 幸せな蟲
私は微生物である。そして私たちには他に類を見ないある特性を持っている。
「なんなの! 嫌な奴!」
どれ、あそこにいる人の雌でそれを見せてやろう。風に乗ってその雌の頭に乗り込む。そして黒い柱の根本に美しいらせんを描いている私の口を入れる。この時、白い物体が少ない所を狙うのがコツだ。口が奥まで届いたら一気に吸い込む。そうすることコクが生まれ美味しく頂けるのだ。
「まあ、そういう人もいるわよね」
やはり怒りの感情はいい。この身体が熱くなるような感覚が気持ちいい。今回はそこまで怒っていなかったから、あまり辛くはなかったのだが、これでも十分に美味しい。
まあ、このように私たちは人の感情を餌にして食べることが出来るのだ。
喜びはまろやかで、怒りは辛く、悲しみはしょっぱく、楽しみは酸味が効いている。恋の感情なんかは甘いと仲間からは評判だが、私の口には合わない。あれはお子様が口にするものだ。
やはり一番美味しいのは怒りであると私は考えている。悲しみなんかもいいとは思うがなにか物足りず、怒りの方が満足できるのだ。
しかし怒りは人気が無く、よく物好きだと言われる。逆に私が嫌いな恋の感情が人気らしい。納得ができん。
ここら辺は私たちの密集地で、誰も怒りを食べず、多く有り余っている。普段は食べ切っても満足感を得られない私にとって宝の山なのだ。そうは言ったものの最近調子に乗って怒りを食べすぎてしまったせいか、心なしか山のようにあった怒りが少なくなっているような気がする。
現に人の雌に乗ったまま移動していても、今の所怒りを感じていないのだ。前までは人が通れば必ず怒りを感じたのだが。そろそろ場所を変えなければならないか。思い立ったが吉日だ。このまま雌に乗ってまた遠くへ行こう。
余談だが私が訪れた所は怒りがなくなり、幸せの町と呼ばれるらしい。
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