7、4
ここはパルマという町の郊外らしい。カラスは俺の肩に止まって一緒についてきた。
「オマエの世界には、ナビーはたくさんいるのか?」
「たぶん、ほとんどいないと思う。俺以外、動物と話せるって人は聞いたことないし。人間と話すのは初めて?」
「おう。オマエは?」
「俺も初めて」
こいつはずいぶんと人懐こく、好奇心旺盛なので、道すがら俺は質問攻めにあっていた。その気安い接し方がむしろ苦ではなかった。
それにしても、お前、とかカラス、だと、なんだかおさまりが悪い。
「俺、カイっていうんだけど、名前は?」
「名前はねえな。人間とドラゴン以外、名前をつける習慣なんてないぜ」
「そうなんだ」
初耳だった。
「ちょっと呼びにくいから、一緒にいる間だけ勝手に名前をつけてもいい?」
カラスはくちばしを開いたり閉じたりしながら笑った。
「いいぜ。何て名前だ?」
俺は眉間にしわを寄せて頭をひねった。
「えーっと、クロ、はどう?」
安直なのは重々承知でだ。俺なりに、黒とcrowをかけたつもりだが、どうせ俺以外の人間にはわからんのだからセンスを否定されるいわれはないぞ。
「クロ、クロ…」
カラスはくちばしの中で何度もそう唱えた。そして、
「うん。なかなかいい響きだな。カイといる間はクロということにしよう」
クロ曰く、人間もカラスと同様住む世界による外見的な違いはほぼないらしい。だから、黙ってさえいれば、町を歩こうが気づかれることはないだろうということだった。なので、さっきの集落を抜けて、ドラゴンの森に向かうことになった。
集落に入るという時、クロが肩の上で翼を広げた。
「それじゃ、オレは空から案内する。ついでにユキって猫も探すぜ」
「このままじゃダメなの?」
「肩にカラスを乗せて歩く人間がどこの世界にいるんだよ」
言葉の通じない人々の中を一人で通り抜けるのは心細いが、耐えるしかない。
俺は、町の中の比較的広い道を北へ向かって進んだ。道は舗装されていないが、踏み均してあるので歩きやすい。ちらほら人を見かけるが、誰も俺に注目していないようだ。畑仕事や立ち話に精を出している。
クロが少し先の屋根や木の枝を飛び移って、俺を案内してくれている。俺は周りに注意を払いつつ、クロの後を追った。しばらく歩くと、徐々に家や店と思われる建物が増え、人通りも多くなってくる。緊張するが、人目を引かないようにに平静を装った。
人々は袖や裾の広いゆとりのある生地でできた服装をしている。柄は様々だが、俺はパーカーにカーゴパンツだから、浮いているのは否めない。それでも、すれ違う人は一瞥するくらいで、誰にも声をかけられなかった。
どれくらいでこの町を抜けられるんだろう。今クロに尋ねるわけにもいかに阿野で、黙ってついていく。時計を見ると、町に入ってから30分が経っていた。道は石畳になり、石造りの建物が密集し始める。町の中心部が近いようだ。やがて、丸く開けた広場に出た。広場を囲むように木が植えられ、真ん中に小さな噴水がある。木にとまっていたクロが、その噴水の縁に降り立った。俺もクロの隣にそっと腰かけた。
「あとどれくらいだ?」
小声で話しかける。広場には何人か人がいるが、こちらに注目している人はいない。クロは羽繕いしながら答えた。
「町を出るまであと半分くらいだ。そんなに心配しなくてもバレやしねえよ」
クロはそう言うが、俺は気が気ではなかった。
クロに合わせて噴水で休んでいると、どこからか甲高いざわめきが聞こえてきた。音はすぐに近くなり、それが子供たちの走る音と歓声だとわかる。何て言ってるのかはわからないが、すごく興奮している。そして、家の陰から子供たちが飛び出してきた。みんな、口々に声を上げながら、何かを追っている。
植木の陰から、子供たちのターゲットが飛び出した。
早くて小さい、見覚えのある白が、石畳を駆け抜けた。
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