6、5

「ところで、カイはいつまでここにいられるのかな?」

 ラエドそう訊かれて、俺ははっと思い出して時計を見た。こちらに来た時から、もう2時間半たっている。

「えっと、そろそろ帰らないと。家族に何も伝えていないので…」

「うむ。貴君さえよければ、またここへ来ておくれ」

 俺は、えっと思って顔を上げた。ラエドが鷹揚にうなずく。

「言い伝えすら知らなかった貴君に、我らを助けてくれとは頼めんよ。それは貴君が決めることだ。伝承の真意もわからんしな」

 俺は、思慮深いドラゴンの瞳を見つめた。



 俺たちは、ラエドに見送られながら森を出た。日が傾き始めたようで、日光が黄色がかっていた。

 最初の丘を登り始めた時、ライラが唐突に尋ねた。

「それで…、カイさんはどうするおつもりですか?」


 ラエドはああ言っていたが、ライラは心配しているようだ。俺は思わず笑った。

「これっきりってことはないから安心しろ。なんの役に立つのかはわかんないけど、まあ、こっちに来るうちに分かるかもしれないし」

 ライラはぱっと顔を輝かせた。

「本当ですか!?」

「あんまり期待すんなよ。それに、危ないことだったら協力できないし」

「もちろんです! 私が、身をもってカイさんをお守りします!」

 俺自身、初めて訪れる世界に興味がわいてきた。それに、ドラゴンの仲間を探すというのは、案外難しいことでもないのかもしれない。

 そう考えていると、ライラが来た時と同じように、俺とヒロに触れた。

 再び無音の風が吹き、俺たちはマスクト・レサを後にした。



 目を開けると、最初の神社に戻っていた。来た時と全く変わらないさびれ具合でたたずんでいる。林の中なので時間は分からないが、浦島太郎みたいなことにはなっていないようだ。俺は、ふわふわした現実感のない気持ちで家に帰った。


「ただいま」

「あら、カイちゃん。デートなのに随分と早いのね」

「え、ああ。うん」

 ミケの言葉も気にしていられない。ミケとアオが顔を見合わせた。

「どうしちゃったのよ」「あれは恋わずらいね」「ま! カイったらライラにホの字なの!」


 しばらく上の空だったが、気づいたらライラが何か言いたそうな顔をしていた。

「あ、ごめん。なに?」

「あ、えと、心ここにあらず、といった感じだったので」

 心配してくれていたようだ。俺は手をひらひらふった。

「だいじょぶだいじょぶ。ちょっと、夢を見てたみたいだったから、つい。でも、ほんとのことなんだよな」

「もちろんです!」

 確かに持ってったパンはなくなってるし、水筒の中身も減っている。それにしても、いろいろ体験した後だったからお腹がすいた。

「昼飯、ラーメンでいい?」

 ライラに尋ねると、代わりにミドリが答えた。

「今日はお昼早いんだね」

「いや、もうとっくに昼過ぎて――」


 掛け時計を見上げた俺はその先の言葉を失った。腕時計と何度も見比べる。


 今朝、家を出たのは10時半過ぎ。向こうの世界にいたのが3時間弱。しかし、家の掛け時計は、俺の腕時計より3時間も前の時を刻んでいた。


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