5、航海

5、1

 その後2人で計画を立て、今週の土曜日に、ライラの言うマスクト・レサに“渡る”ことになった。

 どれくらい時間がかかるかとか、どんな準備をすればいいのか見当もつかないのでライラに聞いてみると、

「わたしの方で、必要なものは用意できます。ですから、カイさんには来ていただけるだけで充分です」

 と言われた。しかし、海外旅行すら経験のない俺には、身一つで異世界に行くのはあまりにも心もとない。

「えーと、マスクト・レサって、電気とかあるの?」

 すると、ライラはきょとんとした。

「デンキ、ですか? それはどういったものでしょう」

 どうやら、現代日本とはだいぶ様式が違うらしい。


 もちろん、何日も過ごすつもりはない。せいぜい1時間かそこら滞在するだけだ。とすると、最低限必要なのは水と、食料、懐中電灯くらいか? いや、方位磁石とかもあった方がいいのかも。

 頭を悩ませた挙句、飲食物、懐中電灯、方位磁石に加え、マッチとナイフとカメラを持っていくことにした。もっといろいろ必要な気もするが、俺の経験だと、せいぜい無人島に行くときの装備しか思いつかない。無人島も行ったことないけど。


「ユキは、何か持ってくものとかあるか?」

 そう聞くと、ユキは首をかしげた。」

「なんでだ?」

「いや、ないならいいけど」

「言っとくけど、オレは行かねえぞ」


 俺はユキの言葉にずっこけそうになった。

「ちょっと、嘘だろ? 俺一人でわけわからんとこに行かせるつもりか!」

 てっきり俺は、一緒に秘密を共有したユキも来るものだと思っていた。しかしユキの返事はつれない。

「オレだってよくわからん異世界とやらに行くのは怖い。まずはカイが様子を見に行ってきてくれ」

「俺が危険な目に遭ってもいいのか!」

「そんなに危ない場所なのか?」

 ユキがライラに向かって尋ねると、ライラはぶんぶんと首を振った。

「そんなことはありません! そうだとしたら、カイさんに来てもらおうだなんて思いません」

「だってよ。それに、適応能力の高い人間ならなんとかなるだろ」

 そう言って高みの見物を決め込んだ。なんて薄情なやつ。


 正直、一人で行くのはかなり心もとない。誰かについてきてもらえないかと考えていると、最適なパートナーが思いついた。

「俺以外も、犬とかも一緒に連れてってもらえる?」

「ご心配なく! お二人ぐらいなら問題なく渡れます」

 ライラの答えに胸をなでおろす。ヒロがいてくれたら頼もしいし、きっと快く引き受けてくれるだろう。


 そうこうして段取りがつくと、眠気が襲ってきた。あくびをすると、ライラもつられて大口を開ける。俺と目が合って、慌てて口を押えた。

「それじゃあ、ライラはここで休んで。なんかあったら2階にいるから」

「はい! ありがとうございます」


 まさか、これも夢だったなんてことはないだろうな。

 そう思いながら、俺は階段を上がった。

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