2、再会
2、1
翌日、謎の少女の出現は俺の町でニュースになった。俺が助けを求めた田中さんがおしゃべり好きということもあるのだが、小学生の写生大会が記事になるような平和な地元紙の、地域面に取り上げられたのだ。
‟昨夜午後7時ごろ、〇×市美作町の辰巳神社で身元不明の少女が発見された。発見当時少女は衰弱しており、現在病院で治療を受けている。
警察によると、少女は意識があるものの会話ができず、身元がわかっていない。捜索願をあたるとともに、市民からも情報を募っている。
発見者は地元の男子高校生で、犬の散歩中にたまたま神社に通りかかって少女を発見し、近隣住民に助けを求めた。警察は事件の可能性もあるとみて調べを進めている。”
もちろん氏名なんか載るわけがないのだが、自分が新聞に登場しているのを見るとドキッとしてしまう。記事の左隣には、発見場所を示す地図が乗っており、神社の位置に×印がついていた。こうして見ると、直線距離では道路から500メートルほどしか離れていない。歩いてる最中は果てしない距離に感じられたのだが。
それにしても、身元が分からないとはどういうことだろう。会話ができないのは衰弱のせいだとして、携帯や財布でも持っていればすぐに判明しそうなもんだ。そのどちらも持っていなかったということか。今時珍しい。そういえば、どこか浮世離れした雰囲気だったな。
その日俺の心は不可解な出来事に1日中とらわれ、気がつけば下校時刻を迎えていた。今日は職員会議があるため部活もない。
まっすぐ家に帰ると、非番だった母さんが、何やら紙袋に荷物を詰めている。俺は何の気なしに尋ねた。
「出かけるの?」
「そう。あの子、まだ家の人が見つからないらしくてね。当分は病院みたいだから、入院の準備しないと」
「あの子って?」
「何言ってんの。あんたが昨日見つけた子よ」
俺は呆気に取られて麦茶のピッチャーを取り落としかけた。
「あの謎の?」
「そう、謎の」
母さんはよどみなく答える。ますます訳が分からない。
「あの子、母さんの知り合い、じゃないんだよね?」
「そうよ。知り合いだったらとっくに両親呼んでるわよ」
なおさら解せない。
「じゃあ、警察に頼まれたとか?」
「なんで赤の他人に子供の世話まかせるのよ」
「て、ことは、母さんの独断?」
「そう」
俺は開いた口がふさがらなかった。
確かに、うちの母さんは世話好きである。元々の性格と看護師という仕事が相まった職業病だ。動物の世話もそうだし、子供の面倒をよく引き受けている。
しかしそれとこれとはわけが違う。少女は身元不明で、手掛かりになる持ち物もない。この町の人も知らない人物で、しかも生身で超音波を発するらしいのだ。言っちゃ悪いがかなり得体のしれない人間なのである。母さんのお人よしぶりは、ちょっと度を越えている。
呆れる俺を無視し、母さんは家を出る準備を始めた。そしてやけに数の多い紙袋を持ち上げようとして、冷蔵庫の前に突っ立っている俺に目を留めた。
「あんた暇?」
唐突な質問に俺はどもる。
「え、あ、うん」
「じゃあ、あんたも一緒に持ってってよ」
面倒見がいいわりに、人使いは本当に荒いな。
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