第7話 誘拐犯はあっさりと判明する。

 たどり着いたところは住宅街にあるとある一軒家の前だった。二階建てで、築年数は一桁くらいといったところかもしれない。

 片瀬と池山は足を止め、向かい合っていた。ちなみに、俺や小松田はそばの電柱に隠れている。

「教えて」

「教えてって、どうしたの?」

「何で、今日に限って、わたしの家に遊びに行きたくなったのか」

 池山は口にするなり、片瀬の方へやや鋭い眼差しを送ってきた。

「真美?」

「教えて」

「教えてって言われても、何となくかな」

「何となくはウソ」

 池山は片瀬の答えに納得してなさそうだった。

「何か隠してる」

「か、隠してなんかいないよ。わたしはただ」

「慌てる姿がさらに怪しい」

 池山が片瀬の方へ詰め寄っていく。

 もしかして、ヤバいのか。

 俺が出ようとすると、小松田が腕を掴んできて、首を横に振った。

「ダメだよ、直也くん」

「何がダメなんだよ?」

「片瀬さんに、何か任せてるんでしょ? だったら、信じないと」

「けどさ」

「まあまあ。本当に危なそうになったら、出ていけばいいんじゃないかな」

 小松田の言葉に、俺はグッと気持ちを堪えて、場にとどまる。

「それに、ホラ」

「何がだよ?」

「片瀬さん、勇気を出して、何かしてるみたいだよ」

 小松田の声に、俺は片瀬へ顔を向ける。

 片瀬は一枚の便箋を、池山の方へ突き出していた。

「この手紙、書いたの、真美だよね?」

「知らない」

「とぼけてもダメだよ? この手紙の内容、わたしのことを知ってる人じゃないと書けないんだよ?」

「知ってる人?」

「わたしが、高井くんのことを好きだってこと」

 片瀬の答えに、小松田が僕の方へ目を向ける。

「そうだったんだねー」

「いや、言っただろ。俺が片瀬をフったってさ」

「直也くんの証言だけだと、イマイチ信用がないんだよねー。だから、片瀬さんの言葉を聞いて、ようやく真実だって思えたよ」

「あのな」

 俺は不満を抱くも、今はそれどころじゃないと内心言い聞かせた。

 便箋を書いた人は、池山と本人の前で言い切った片瀬。

 対して、池山は便箋を一瞬見やるだけで、手にしている片瀬と目を合わせた。

「だったら、どうする?」

「だったらって、こんなこと書いたってことは、その、書いてある佐々木千恵香って子は」

「わたしが預かってる」

 池山のさらりと口にした内容に、俺はどうすればいいかわからなくなった。

「これは大変なことになったね」

 小松田はなぜか、表情を変えずに、ただ、顎に手をやり、何か考えてるようだった。

「真美は、大変なことをしてるんだよ! 自覚ないの!?」

「自覚はある」

「なら、どうして……」

「みよりの恋を後押ししたかった」

「後押ししたかったって、だから、手紙に、こんなことを書いたの?」

 片瀬の言う、「こんなこと」とは、「片瀬みよりと恋人関係になれ」のことだろう。

 だが、俺には便箋の中身など、どうでもいい。

 さっき、池山は、千恵香のことを「預かってる」と言っていた。

 だとしたら、どこにいるんだ、千恵香は。

 俺は気になって、飛び出そうとした時だ。

 気づけば、小松田がいつの間にか、片瀬と池山の前に出てきていた。

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