第6話 告白しておいてすぐにフるのは最低な行為だ。

 放課後。

 俺は教室にて、学校の鞄を肩に提げて帰ろうとする片瀬に声をかけようとした。

「直也くんはつれないよねー。昼休みの逢引きがどうなったのか教えてもくれないし、今のように、僕を見捨てて、さっさと帰ろうとするんだもんねー」

 肩にもたれる格好で、小松田がメガネをわざわざ指でかけ直しつつ、視線を向けてきた。

 俺はため息をついた。

「悪い。今日は小松田の相手をしてる暇はない」

「ひどいなー。僕との仲は何だったんだろうね」

「そういう仲ってことにしてくれ」

「今日の僕に対する冷たい態度は、それ以上に何か深刻な事態に直面している裏返しなのかな?」

「珍しいな。小松田の言う通りだ」

 俺は言うなり、片瀬を目で追いかける。彼女は丁度、誰かと廊下を出るところだった。友人だろうか。

 俺は小松田を置いて、遅れて教室を後にした。

「ご武運をー」

 小松田の声は、俺に対する励ましだったのかもしれない。



 校舎から校門を抜けたところで、俺は足を止め、近くの電柱に隠れた。何人かの下校途中であろう生徒らに訝しげな視線を浴びるも、気にせずに、前を見る。

 片瀬と並んで歩くもうひとりの女子。

 ショートカットと、時折覗き見える端正な顔つき。長身で、俺を含めた男子よりも高い。学校の鞄でなく、リュックを背負い、片瀬と淡々とした表情で口を動かしている。

 相手が誰なのか、俺の記憶を探った末、ようやくわかった。クラスメイトの池山真美だ。確か、よく片瀬と話している光景が多かった気がする。ということは親友なのだろうか。

 加えて、片瀬が俺のことが好きだと知ってる心当たりの人物。もしかして、池山なのかもしれない。

 俺はかぶりを振った。あくまで推測だ。勝手に他人を疑う、しかも、同じクラスの子だ。違ったとしたら、申し訳ない。けど、もし、池山が千恵香を誘拐した犯人だとしたら。俺は電柱に隠れつつ、内心で葛藤を続けていた。

 片瀬は楽しげに池山と話をしているように見えた。探りを入れてる風には感じられない。けど。

「うんうん。事態は深刻を争う感じみたいだね」

 不意に後ろから声が響き、振り返れば、小松田が近くの壁に寄りかかっていた。両腕を組み、何回もうなずいている。

「小松田、ついてきたのか?」

「まあねー。クラスメイトの子らにつきまとう友人を見てたら、気になるに決まってるじゃないか?」

「誤解しないでほしいんだけどさ、俺はストーキングをしていたわけじゃない」

「それはわかるよ。直也くんはそういう陰湿なタイプじゃないからね」

 小松田は俺の肩に手をやりつつ、片瀬と池山の方へ視線を向ける。

「片瀬さんにフラれたのかな?」

「その逆だ」

 俺は黙っているのも面倒になり、あっさりと昼にあったことを話した。

「俺がフったんだよ。色々と事情があってさ」

「今の話、本当のことなら、大変なことだよねー。一部の男子を敵に回す発言だよ」

 小松田の声に、「ご忠告、ありがとな」と返事をする。

「で、フった相手をストーキングするなんて、未練が残ってるのかな?」

「そういうわけじゃない。これには色々と事情があるんだよ」

 俺は言いつつ、遠ざかっていく片瀬と池山の後を追う。

 なぜか、小松田も俺についてくるが、特に突っ込むことはしなかった。

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