第3話 告白はうまくいくかどうかわからない。

 昼休み、俺は屋上前の出入り口前に立っていた。前には階段があり、踊り場を挟んで、校舎四階に続いている。

 外は雨が降っていた。朝の天気予報通りとはいえ、気持ちはどんよりとしていた。千恵香が行方不明ということもそうだが、片瀬のこともだ。

「さあさあ、こっちこっち」

 下からは、聞き慣れた小松田の声が耳に届いてくる。呑気そうな感じとともに、誰かを連れてきていることが察せられる。俺は黙ったまま、一息つこうと、近くにある手すりに寄りかかった。

「じゃあ、後は上で待ってるから。それじゃあ、僕はここで」

「えっ? ちょっと、小松田くん!」

 小松田とは別の、戸惑ったような調子という女子の声。俺には聞き覚えがある。というより、その子を呼んできてほしいと、小松田に頼んだのだ。

 彼女は踊り場を経て、俺の視界に現れた。

「た、高井くん!?」

 俺の方を見て、素っ頓狂な声を上げた相手は、クラスメイトの片瀬。両手を胸の前で握りしめ、驚いたような表情をしている。控えめそうにわずかだけ開く唇は、震えているように感じた

「わ、悪い。急に呼び出したりしてさ」

「う、ううん。大丈夫」

「なら、よかった」

「それで、わたしを呼んだ理由って、何なのかな」

 片瀬は落ち着いたかと思えば、視線を逸らしつつ、問いかけてきた。

「呼んだって、その、まあ、大した用事じゃないんだけどさ……」

「そう、なんだ……」

 片瀬は相づちを打つも、俺と目を合わせようとしない。恥ずかしがっているのか。だとしたら、理由がわからない。

「用事は、その、何なのかな」

 片瀬に問いかけられ、俺はどう答えようか、悩む。

 俺と付き合ってほしい。

 言葉で表せば、それだけだ。

 だが、片瀬相手にあっさりと言って、すぐに受け入れてくれそうなものではない。

 噂では、片瀬は何人かの男子に告白をされているらしい。で、全てを断っているというのも聞いている。しかも理由は、「好きな人がいるから」だそうだ。

 だから、俺が告白しても、成功する確率はゼロか百パーセントかのどちらかだ。

 つまりは、片瀬が好きな相手が、俺かどうかで決まるということだ。

「いや、そのさ、用事というかさ、その、片瀬にお願いしたいことがあってさ……」

「わたしにお願い事?」

「ああ」

 俺のうなずきに、首を傾げていた片瀬の頬がうっすらと赤らむ。

「わたしにできることなら……」

「できるも何も、ただ、そのさ、今から言うことに対して、返事をしてほしいだけだからさ」

「返事?」

「ああ。だから、その、簡単だろ?」

 俺は言いつつ、内心で遠回しすぎな口振りの自分に腹が立ってきていた。もっと直接、ちゃんと話せばいいものの、照れがあって、できない。というより、フラれるという結果も十分あり得るのだから、なおさらだ。

 片瀬は髪を指でいじりつつ、やや俯き加減になる。聞こえはしないものの、ひとり言を発してるようだ。

「わ、わかりました!」

 不意に片瀬ははっきりと言うと、俺と目を合わせた。瞳はしっかりと見開いていて、意を決したような強さがあった。

 俺は片瀬のそういう雰囲気に気圧される形で、口を開いた。

「そのさ、俺と、付き合ってほしい」

 途中、片瀬から視線を外した俺は、返事を聞くことが怖くなった。もはや、千恵香がどうこうよりも、自分の女の子に対する評価がどうなのかだ。ごめんなさいとなれば、多少予測していたとはいえ、ショックがある。

 しばらくの間、片瀬からの言葉はなかった。

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