第2話 片瀬みより

 片瀬みよりは、改めて目にすると、男子からの密かな人気を改めて再認識できた。

 白のカチューシャをつけ、肩まで伸ばした黒髪。目鼻立ちはナチュラルメイクなのか、派手な化粧っ気はない。制服の着こなしは乱れがなく、スカートも膝が隠れるまでの長さ。覗ける両手両足は他の女子より細い。仲のよさそうな子と話す時にこぼれる笑み。見ている側からは、癒しを届けてくれるほど、爽やかだ。

 休み時間に片瀬を何気なく見ていた俺は、便箋のことで頭が一杯だった。

「まさか、相手が片瀬さんとは思いもしなかったよ」

 振り向けば、小松田が両手を掲げ、首を横に振り、やれやれといったポーズをしていた。

「俺は何も言ってないぞ」

「いやいや。言わなくても、今の様子を見れば、誰だってわかるよ」

 小松田は何回もうなずく。俺は相手にすることが面倒になってきた。

「だったら、どうするんだ?」

「決まってるじゃないか。影ながら応援するよ」

「そうか。ありがとな」

 俺は口にするなり、片瀬の方をじっと見る。

「何だか、嬉しそうな感じじゃないみたいだね」

「うるせえ」

「どちらかと言えば、困ってるって感じだよね」

 両腕を組み、首を縦に振る小松田。

「僕に相談してもらってもいいのになー」

「いいだろ、別に」

「苛立ってる様子だと、ますます気になっちゃうよ」

 小松田の言葉に、俺はどうすれば、かまってくれなくなるか、考え込んでしまう。いや、小松田は俺のことを気にしているだけだ。悪気があるわけじゃない。けど、今の俺にとっては、邪魔でしかなく、声を荒げてしまいそうだ。

「そういえば、千恵香ちゃんは?」

「何も。警察が捜索してるけどさ、手がかりさえ掴めないとさ」

 俺は悔しさで唇を噛み締めた。

 千恵香はどこに行ったのだろうか。

 いつも、俺のことを頼っていた千恵香。いなくなると、寂しさが否応なく、迸ってくる。行方不明になった日、俺が一緒に帰ってあげればと何回も思ってしまう。

 気づけば、俺は頭を抱えていた。

「大丈夫?」

「ああ。大丈夫だ」

 俺は顔を上げ、心配そうな顔をする小松田に手を軽く上げる。

 千恵香の手がかりが、まさか、朝の便箋で得るとは予想だにしなかった。

「なあ、小松田」

「何?」

「ちょっと手伝ってくれるか?」

「その言葉を待ってたよ。うんうん。持つべきは友達だよね」

「自分で言うか、普通」

「まあまあ。細かいことは気にしない」

 小松田は言うなり、俺の肩を軽く叩く。

 奥にいる片瀬は、俺らに目を向けず、他の女子と楽しげに雑談を続けていた。

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