Track 2
ほんの僅かに開いていた錆だらけになったぶ厚い鉄製の扉があり、中に入っていった。
扉を開けると中はカビ臭く、道路下の地下通路のような薄暗く細長い通路があった。
そこをiPhoneのライトを照らしながら慎重に歩いていく。
奥に進むに連れだんだんと音が大きくなっていく。会場に近づいてるみたいだ。
通路を歩ききった先にはもう一つ扉があり、その扉は重厚な鉄扉となっていた。
扉には地獄の門があるならこんな感じなんだろうと思うようなおどろおどろしい装飾や、
天使や悪魔、ドラゴンのモチーフで飾られており、
扉の真ん中のプレートには『Club Fantasista 808』とあった。
音が中から漏れ聞こえてくる。怖いという感情よりも面白そう!という感情が
勝ってしまい僕はごくりと唾を飲んで、恐ろしげな扉に手をかけた。やはり扉は重く、
ゆっくりと開いていった。
中の様子は現実のものとは思えない様子だった。
聴いたこともないような音楽が流れ、リザードマンや、エルフ、サキュバスが踊っている。
ドワーフがビールを仲間同士で乾杯し、テキーラのような強そうな酒をオークや、コボルト達が一気飲みしていた。
サキュバスが妖艶な表情で、セクシーな身体を揺らしながらDJをしている。
な、なんだ、ここは!?
明らかにこの世のものとは思えない光景に僕は立ち尽くしていた。
コスプレをテーマにしたイベントなのかな?
「あなたも今日出演されるセレクターなのです?」
エルフのコスプレの女の子が、その風景に圧倒されボーっとしている僕に話しかけてきた。
コスプレのレベルたかっ!!ロングの黒髪に長い耳、その容姿は美しかった。
魔法使いのローブのような格好で、ヘッドホンらしきものを首から下げている。
童顔な顔には不釣り合いな胸も意外と大きくて僕はドキリとした。
「セレクター?セレクターってなんですか?」
セレクターという聞きなれない単語を訪ねる僕をエルフの女の子は意外そうに見つめた。
「格好がセレクターっぽかったので、セレクターかと思ったのです。その首に巻いているモニタルス、セレクターが身に付けるものなのです。セレクターはここで音楽を流して、パーティーを盛り上げている人のことなのですよ。」
「え?モニタルスって、このヘッドホンのこと?」
あぁ、セレクターってDJみたいなものか。まぁ、そういう意味では僕もセレクターみたいなものなのかな。
このジャンルではDJのことをセレクターっていうのか。
「え〜っと、僕はセレクターはセレクターなんだけど、今日はここで回しにきたんじゃないんだ。聴いたことがないかっこいい音楽が流れてるなぁと思って、フラっと立ち寄っただけで」
頭をポリポリとかきながら、僕は気まずい思いをしながら応えた。
「え!あなたもやっぱりセレクターなんですか!」
エルフの女の子の目がパッと輝いた。
「実は今日は飛び込みで誰でもセレクトしていい日なのです!よかったらあなたも参加しませんか?私も参加する予定なのですが、一人だと心細くて。」
エルフの女の子がチラリと目をやった。
飛び込みの参加受付をしているらしい双頭のエイリアンの格好をしたセレクターは確かにおっかなそうだ。
というか、あのコスプレどうなってんだ!?めちゃくちゃレベル高いなぁ。
うーんと僕は腕を組み考えた。このままこの娘をほっておくのもなんだしなぁ…。うん、わかったと、自分のなかで納得させた。
「これも何かの縁だしね!僕も参加していくよ。ただ、他のイベントの出演前だから、1、2曲しか回せないし。初心だからあまり期待しないでね。あと、自己紹介がまだだったね。僕の名前は翔だよ。」
エルフの女の子はパァと顔が明るくなり、長い耳をピーンとさせた。
「ありがとう、翔。私の名前はフラン・キウィジュです。とても心強いのです!」
「よろしく、フラン!」
フランって変わった名前だなぁ。外国人だったのかあ。確かにフランの見た目は日本人離れして美しかった。
僕らは踊る群衆をかき分け、双頭の受付のお兄さんに話しかけた。
「すいません!今日の飛び込み枠に僕と彼女で参加できますか?」
双頭のセレクターの右のほうが僕の顔を向く。
「やぁ!ヒューマンの兄ちゃん。ヒューマンのセレクターなんて、この箱では珍しいな!もちろん、どんな種族でも参加可能だぜぇ。但し、音を止めたり盛り下げたりしたら、魂、もらっちまうからな!」
た、魂!?取られるってヤバすぎでしょ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます