チート雀

 ネット麻雀ゲーム、『神牌』。

 インターネットを通じて全国の人と麻雀ができるゲームだ。リアルな牌音、わかりやすい画面、安定した通信環境が好評となっている。

 が、人気の秘密はそれだけではなかった。

 勝つと手に入る“ポイント”が、裏サイトで換金できるのだ。それを知っているプレーヤーたちは、こぞって参加し、競って勝ちを目指した。

 ありとあらゆる手を使って。


 ネットで流れてきたとある噂。

 リンクをたどってたどり着いた先では――。

「よし、チートをダウンロードできたぞ」

 宏和は、画面の前でにんまりと歯を見せた。

 チート・プログラム。

 ゲームに対して不正に働きかけるプログラムである。これがあると、アクションゲームでダメージを受けても体力が減らなかったり、レースゲームで最高速を常に出し続けたりといった反則行為ができる。

 このゲームの場合は?

「これでもう、ロンされることはない」


 麻雀は4人でやるゲーム。34種136枚の牌を使って、できるだけ高い役のアガリを目指し、ポイントを奪い合うゲームだ。

 アガリには、『ツモ』と『ロン』の2パターンがある。

 ツモは、全部自分で揃えるアガリ。

 ロンは、他人の捨てた牌を使うアガリだ。

 ツモは他の3人からポイントを奪うことができ、ロンの場合は、アガリの牌を捨てたプレーヤーだけがそのポイントを奪える。

 ここが肝心だ。

 ロンされてしまえば、3人分のポイントを払うことになる。

 その損失はとても大きく、高い役でロンされると、それだけでゲームの続行が不可能になるほどだ。


 しかし、このチート・プログラムは、それを防ぐことができる。

 相手がアガリの寸前、『リーチ』の状態になると、引いてくるはずの牌を変更。絶対に、ロンされる牌を引いてこなくなる。

「これがあれば、少なくとも負けはないぞ」

 宏和はさっそくゲームを始めた。

 ネットの中で4人がつながる。

 さあ、麻雀だ。


 1回目。

 親をやっているプレーヤーが、『リーチ』を宣言した。

「ドラ3枚、高い役だな」

 宏和はアガリを目指すのをやめた。 

 引いてくる牌を捨てるだけにする。

「俺も、あと1つでリーチなんだけどなぁ」

 他のプレーヤーも同様だ。

 同じように引いた牌を捨てるだけ。

 そのまま順番が進んで、ついに最後の1巡になった。各プレーヤーがあと1回ずつ牌を引いて、それでアガリにならなければ、ゲームは“無し”となる。

 だが。

「お?」

 最後の最後で、『リーチ』になる牌を引いてきた。リーチの状態でゲームを終えるとボーナスポイントがあるぞ?

「……」

 引いてきた牌を入れて、『白』の牌を捨てれば『リーチ』だ。

 どうする?

「いやいや」

 迷ったが、宏和は予定どおり、引いてきた牌を捨てた。

「せっかくチートを使ってんだからな。それに従おう」

 そして次は親が引く番。

 『ツモ!』。

「うぉっ!」

 画面にど派手な演出が表示される。

「字一色だと??? 4万8千ポイント、めちゃくちゃ高いじゃねーか! アガリ牌は……『白』だ! 危ねえ!」

 もう少しでロンされるところだった!

 ツモアガリでもポイントは減るが、3分の1ですむ。

「やっぱ、このチートは役に立つぜ!」


   ※   ※


 ネットの向こう。

 真っ暗な部屋で、少年はつぶやいた。

 画面の中には字一色。

「ふふふ。やっぱり3人とも、僕のつくったチートをつかってるな」

 麻雀は、34種136枚の牌しか使えないゲーム。

 他の3人がアガリ牌を避ければ、それは、勝手に自分のもとにやって来ることになる。

「ふふふふ」

 少年は、引きつるように笑った。

「運営も気づきはじめてるから、そろそろ気をつけないと。ま、アカウント削除されるのは僕じゃないけどね。だって、僕は普通に麻雀をしてるだけなんだから」

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