国境警備隊

 タンタンタタンタン。

 音が響く。

 彼はキーボードを打っていた。

 彼の仕事は国境警備隊。その責任者だ。敵国との境界にあるこの建物で、平和をつくるのが彼の務め。

 タンタンタタンタン。

 今日も、上司への報告書を書いている。

 『本日も異常なし。平穏無事』。

 それが彼の仕事である。

 ダンダンタタンタン。

 だんだんと音が激しくなってきた。

 ダンタダンタンダン。

 タダタタンダダンタン。

 ダンタンタタタンダダダダダ。

 無軌道に交錯するそれは窓の外で響き合い、がなり立てるように絡み混じって夜の中に落ちる。

 やがて。

 音がやんだ。

 しばらくして、扉が開いた。

 彼の部下が、血まみれの腕で敬礼をして、入ってきた。

「敵の殲滅、完了しました」

「うん、ご苦労」

「兵士の1人を捕らえましたが」

 部下の足元には、後ろ手に手錠をかけられた男が、脚から血を流しながら転がっていた。部下の手についた血は、どうやらこの男のものらしい。

 彼は黙って机の引き出しを開け、

 そこからピストルを出し、

 3発撃った。

 タン、タン、タン。

「片付けて置いてくれ。跡形も残さぬように」

 部下は死体を引きずって出て行った。

 彼は引き出しを閉じると、ふたたびキーボードに向かう。

 『本日も異常なし。平穏無事』。

 敵の襲撃は日に日に激しさを増してきている。だが、それを報告すれば戦争になってしまうだろう。

 それは、いけない。

 平和がいちばんだ。

 弾薬の消費は演習として処理される。

 人間の損害は事故として記録される。

 彼は今日も、報告書を書く。

 昨日とおんなじ報告書。

 こうして平和はつくられる。

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