人間が生まれる前の話

 これは、人間というものがこの世に生まれる前の話だ。


 とある宇宙人が、地球に降り立った。

「この星は、素晴らしい。豊かな水に美しい大地。別荘として、銀河連邦の金持ちたちに売り飛ばそう」

 だが、それには問題があった。


「ちょっと生き物が、多すぎるな」


 海には魚類。空には鳥類。地上には爬虫類、そして哺乳類。地球はたくさんの命でおおわれていた。

「これじゃ高値はつかないぞ」

当然だろう。シロアリに食われたり、ネズミが走り回っていたりする家を買いたいという人間がいないのと同じ理屈だ。


「よし。この星の生き物を絶滅させよう」

 

 しかし、どうやって?

 惑星破壊爆弾や、大気汚染装置を使うのは簡単だが、それでは、この地球の美しい環境をも破壊してしまう。それでは意味がない。

「そうだ。これを使えばいいんだ」

 宇宙人は、荷物の中から1つのカプセルを取りだした。

 その中には、とあるウィルスが入っている。

「強欲、という名のウィルス」


 このウィルスに感染した生き物は、際限なく自分の欲しい物を求めようとする。

 餌。縄張り。繁殖相手。

 限度を知らず、節度を顧みず、ただ欲望のままに動く。

 群れをつくり、生活圏を広げて、他の生き物を追いやる。不必要な食料や領地を確保し、無駄にする。そうやって地球全土に広がっていく。

 やがては、他の生き物をすべて滅ぼしてしまうだろう。

 そうなれば、次は自分たち同士で争いだす。蔑みあい、足を引っ張りあい、憎みあって、いずれは自分たちも滅亡してしまうに違いない。


「これがいちばん手っ取り早い」

 決定だ。

 さて、どの生き物に感染させようか? それを決めるため、宇宙人は地球を一回りして調査した。

「あれがいいな。割と高度に進化しているし、雑食で環境への適応力も高そうだ。手先が器用なのも、群れをつくる習性があるのも良い」


 その生き物は、サルだった。

 これは、人間が生まれる前の話である。

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