新しい裁判制度

 この日本で新しい裁判制度が始まった。

 その名も、審判員制度。

 とある事件に対して、無作為に集めた7人から話を聞き、それで『有罪ギルティ』かどうかを決めようというのだ。

 その詳細を、これからご覧にいれよう。


   ※   ※


 これは、先日起こった暴行事件。

 犯人はとある会社員、山田(仮)さん。

 勤めている会社の上司を殴り、全治一ヶ月の怪我を負わせました。

 山田(仮)さんは、普段から横暴な上司のパワハラに悩まされており、また1人だけでトイレ掃除をやらされる、忘年会に呼ばないなどのイジメを執拗に繰り返されてきました。

 そのうえ会社はブラック体質で、月100時間ほどの残業を課せられ、体力的にも憔悴しきっていました。

 そんな中で迎えた新年、仕事始め。

 集まった同僚たちの前で、山田(仮)さんは、上司に頭頂部の毛髪が薄いことを指摘され、さらにそれを伝説上の生き物にたとえて揶揄されたことで怒りを覚え、犯行に及んだものです。


 さあ、皆さん。意見をお聞かせ下さい。

 

 審判員A 60歳男性・会社経営。

「上司の行為は、許されることではない。経営者として、非常に遺憾ですな」

 審判員B 38歳女性・女性運動家。

「このような社会的モラルの低さは、男性優位社会の副産物ですわ」

 審判員C 74歳男性・年金受給者。

「ワシらの若いころもあったのう。それで随分とキツイ思いもしたものじゃ」

 審判員D 17歳女性・高校生。

「あり得なーい。マジやばーい」

 審判員E 44歳男性・ニート。

「私に言わせれば、この件は2年前の裁判に前例があり、また海外でも……」

 審判員F 24歳女性・警察官。

「暴力行為は許されるものではありませんが、個人的に、心情は理解できます」

 

 そして審判員G。

 それは、貴方です。

 貴方の意見を聞かせて下さい。

 ……。

 ふむふむ、なるほど。わかりました。では、決めましょう。山田(仮)さんは、罪に問われるべきか?

 「有罪」か「無罪」か。

 みなさん、一斉にどうぞ!


 貴方「無罪!」

 A・B・C・D・E・F「有罪!」


「上司の行為は遺憾だが、犯罪とはいえない」

 ――おまえら社会の歯車なんだよ、いいから黙って働けカス。

「男性優位の社会に問題はありますが、これはこれ、それはそれです」

 ――セクハラ裁判だったら何が何でも無罪にしたけどなー。

「イジメられる方にも原因はあるのじゃ」

 ――最近の若者は根性が足りん!

「えー? なんとなく、ノリで」

 ――本来だったら絶対無罪だと思うけど、なんかこのメンツだと有罪っぽい雰囲気だからそっちにしとこ。

「私に言わせれば、これはグローバルな視点をもって考察されるべきで……」

 ――早く帰ってアニメが見たい。

「いやだって暴力行為は犯罪ですから」

 ――パワハラ? イジメ? 証拠そろえてから届けを出しにこいや、こっちは忙しいんだからよ。


 ふむふむ。なるほど。

 これで決定しましたね。

 『有罪ギルティ』は貴方です!

 貴方は禁固1年。その間に、人格矯正プログラムを受けてもらいます! だいじょうぶ、ちょっと脳をいじくるだけですよ。


   ※   ※

 

 これが審判員制度。

 とある架空の事件にたいして、意見を交換し、結論を出す。そこで空気を読まず、外れた回答をした者は、『有罪ギルティ』となるのである。

 この日本で、空気が読めない人間に、人権はない。

 この制度は20XX年から施行されている。

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