真冬のバカンス

 青い空! 白い雲!

 どこまでも広がる大きな海。

 きらきらと光る砂浜で、真っ赤なビキニを着たリサは、サングラスを外して眩しい太陽を見上げた。

「いやあ、本当に素晴らしいわね」

 かんかんと照りつける光は、この数日で彼女の肌を小麦色に変えてしまった。

「寒い日本を抜け出して、南半球まで来たかいがあったわ。うふふ。ヨウコもハルナも羨ましがるでしょうね」

「そうだろうね」

 答えたのは、タカユキだ。

 茶髪にピアス、わりと軽い感じの大学生である。だがイケメンで金持ちで、リサ好みの細マッチョ。このバカンスの相手としては、理想的だった。

「私、こんなところに来てみたかったの。憧れの南の島」

「それは良かった」

「見て見て、入道雲」

「大きいね」

「見て見て、熱帯魚」

「可愛いね」

「背の高いヤシの木」

「とても登れそうにないね」

「変な色の貝」

「毒とかありそうだね」

「空っぽのペットボトル」

「もう全部飲んじゃったからね」

「座礁して転覆したヨット」

「直すのは、無理だね」

 沈黙。

「いやあ、でも良かったじゃないか。こんな素敵な無人島が、たまたま近くにあって」

「やかましい!」

 リサはタカユキの首を締め上げた。

「どーすんのよ! 無線も携帯電話も濡れて使えなくなっちゃって! 食べる物も無くなっちゃったし! もう3日よ!」

「だ、大丈夫だよ、きっと何とかなるって……」

「根拠がなァい!」

 青い空、白い雲の下。

 大きな海の真ん中で繰り広げられる、暑くてきっつい真冬のバカンス。

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