病気と薬

とある医者のところに、患者がやってきた。

「先生。私はいったい何の病気なんですか。よく脇腹がキリキリと痛むし、吐き気もするんです。それに、倦怠感に体のだるさ……体重も5キロ増えました。この前なんか、、夜中に激しく嘔吐してしまって……」


 医者は真剣な表情で、ふむふむと患者の話を聞いた。

 それから体温を測り、喉の奥を見て、腹部を触診し、心音を聞く。そして看護士に指示を出して血液検査と尿検査を実施し、さらには心電図にレントゲン、MRIも行った。


 結論。

「あなたは、ポフィリロ症候群ですね。1000人に1人のめずらしい病気です」

「なんですって!」

「完治は難しい難病ですが、命に関わる病気ではないことが幸い。気長に治療をしていきましょう。薬を出しておきます」

「ああ……ありがとうございます。先生のような名医に診てもらえて幸せだ」

 深々と頭を下げ、患者は何度もお礼を言った。

 そして、実にすっきりとした顔で帰って行った。


 看護士は医者に聞いた。

「先生はさすがですね。めずらしい病気を的確に診断されるなんて。ポフィリロ症候群なんて、私は聞いたこともありませんでした」

「そりゃそうだろう、そんな病気はないんだから」

「え!」

「あの人は、ただの食べ過ぎだよ。渡したのは胃薬だ」

「じゃあ、なんであんな診断を……」

「いいかい? ああいう人は、病気になりたがっているんだ。

 体調が優れないことで自分がどんなに辛いか聞いてもらい、それに同調して欲しいだけなんだ。もし腹痛が治っても、次は頭が痛いとか言い出すさ。

 それなら病気ということにしてあげた方が、ストレスを感じずに、健康的に暮らせるってもんさ。それが何よりの薬だよ」

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