FA宣言桃太郎

 フリーエージェント制度。

 チームに所属している選手が、「FA宣言」をすることによって、自由に別のチームへ移籍することができる制度である。

 FA宣言をする理由はさまざまだ。

 環境を変えるため。給料を上げるため。好きなチームへ行くため。そして……現在の待遇に不満があるため。


「つまり君たちは、出て行きたいってことかい?」

 桃太郎は言った。

 目の前にいるのはイヌ・サル・キジ。3匹とも、ツーンとそっぽを向いている。

「俺たちはもう、あんたの命令に従うのに飽き飽きしてるんだワン」

「だけど、待遇を改善してくれたら考えてもいいキー」

「あなたをこれだけ有名にしてあげたのは、私たちだケン。いただくものは、しっかりいただくケン」

 彼らから提示された条件は、3つ。


 一、もらうキビダンゴを1つではなく3つに増やすこと。その際「お腰につけたキビダンゴ」ではなく、「保冷ケースに入った個包装のキビダンゴ」とすること。


 二、鬼ヶ島から持ち帰った宝は、均等に分けること。現物支給ではなく、信用のおける機関に査定を依頼した上で、査定額の4分の1を口座に振り込む。ただし、鬼退治にかかる費用は、全額桃太郎の負担とする。


 三、「3匹のお供」ではなく、「3人の同志」と表記すること。タイトルも、「桃太郎とイヌとサルとキジ」に変更すること。


「ムチャクチャだ!」

 桃太郎は怒った。

「いくらなんでも、これは……」

「なら、出て行かせてもらうワン」

「昔話なんて山ほどあるキー」

「交渉決裂だケン」

 こうして、3匹は出て行った。


 それから。

 イヌは「花咲かじいさん」に移籍し、意地悪じいさんに殺された上で燃やされた。

 サルは「さるかに合戦」で集団リンチを受けた。

 そしてキジは、とある石川県の民話に再就職をした。タイトルは――

 

 「キジも鳴かずば、撃たれまい」。

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