発覚の理由

「絶対にばれないと思ったんだけどねぇ」

 パトカーの中で、井上はつぶやくように言った。

 独り言だったのかも知れないし、誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。ウィンドウの外を流れていく街の明かりをぼんやりと見ながら、彼はとてもがっかりしているようだった。

 隣に座った久我山警部は、おもんばかるように口を開いた。

「残念でしたね。しかし、馬鹿なことをしたもんだなあ」

 ふふふ、と彼は笑った。

「完全犯罪、ってやつをやってみたかったんですよ。怪盗ルパンに憧れててねえ。子供のころ、夢中になって読んだものです。誰も傷つけず、悪人から華麗に大金をせしめてみせる」

「私も読みましたよ」

 警部は照れくさそうに言った。

「こんな商売をやってる私が言うのもナンですが、じつは、子供の時はホームズよりもルパンが好きでね。『奇巌城』なんて何回読んだかなあ」

 二人は笑い合い、しばらく本の話をした。

 しばらくすると、警察署の前でパトカーは止まった。

「さ、行きましょうか」

「ええ」

 車から降りる二人。

 そこで、ふいに、井上が言った。

「ねえ、警部さん」

「? 何でしょう」

「一つ聞かせて下さい。なぜ、僕が犯人だとわかったんですか」

 真っ直ぐな目で訴えかけてくる。

「自信があったんですよ。『最も成功しにくい犯罪』である『誘拐』を、やり遂げる。三年前から計画を立て、入念に準備を進めてきました。僕が犯人だと疑われないように、細心の注意を払って決行したんです。

 何故わかったんですか?

 何時わかったんですか?

 どうして―― 」

 ごくりと、息をのんで。

「どうして、この事件が狂言誘拐だとわかったんですか?」

 警部は一度、視線を落とし、それから答えた。

「ご自分でおっしゃったじゃないですか。

 誘拐は、最も成功しにくい犯罪だってね。

 その誘拐が、見事に成功した。文句のつけようもないほど完璧に、ね。

 そのとき私は、これが狂言誘拐で、あなたが犯人だとわかったんですよ」

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