04 魔族と魔物とモンスター

 馬車。今でも使われている所はあるが、車の方が利用者数は多い。それが俺達の世界の常識だ。


 もちろん移動手段として最も多いのは歩きだとは思うが、俺達にとって馬車という乗り物は、昔は使われていたらしいよく揺れる乗り物、という見解である。

 乗った事が無いので新鮮味はあるものの、馬車というのはよく揺れる。意外にも先生は乗り物に弱いらしいため、青褪めた顔で黙りこくっているのもまた新鮮だ。


 ただ、車でも道が悪ければ揺れるというのに、馬車は車のような衝撃緩和素材が使われていない分、地面の形に沿ってダイレクトに揺れてくる。

 まるで、移動しながら地震を体感しているような感覚である。

 それにこれは、厳密に言えば馬車と呼べる代物ではない。

 何せ、乗り物の名前は馬車でも、それを引いているのが『鳥』なのだ。ダチョウのような、それでいて足以外羽毛に覆われた生物で、知能が高い『魔物』だそうだ。


「魔物って、英語にするとモンスターだったよね」

「ああ。俺達の世界では、な」


 がたがた揺れる車内は、俺、ルディ、ハルカさんの3名である。

 何故この3名かって?

 そもそも馬車は6人乗りの物らしいが、それはぎゅうぎゅうに詰めたり、2人ほど立ったりすれば入るような狭さなのである。


 2人座ると微妙にゆったりとした空間の空く柔らかいソファが、向かい合って2つ。進行方向に向かって右と左のどちらにも扉がある。ただし、一方は緊急脱出用の扉らしく、有事の際以外はただの壁にしか見えないという仕掛けが施されている。

 聞けば、貴族なら常識レベルで使われている技術だそうだ。

 そういうわけで、3人と4人に分かれる事となったのである。


 公平にじゃんけんで決めたはずが、賢者とそうでない者とに分かれてしまった。

 そして今。俺とルディが後ろ、ハルカさんが前のソファに腰掛けている。

 内装はシンプルで、黒を基本に金色の線が草花や動物の形を描いている、とても芸術的な装飾と言っておこう。洒落てはいるが、派手ではない。そんな感じである。

 ソファは赤。こうして観察してみると、ドレス姿のフィオルを連想させる。


「魔物とモンスターは別物ですね」

「使い分けているという事は、そういう事だろうな。大方、人に害をなすかそうでないかだろう」

「そうです。害をなすのがモンスター。害をなさないのが魔物。モンスターは知能や意志が弱く、畑や海を荒らすなどの害をもたらしますが、そのモンスターの中でも知能が高く人との交渉次第で和平を結べる存在が魔物です」


 線引きは曖昧らしいが、一方で盗みを働いても、こちらが食料を融通する代わりに襲わないと約束して、それで害にならなければ魔物と認定されるようだ。

 要するに、一定以上の知能を持つ人外のモンスターが魔物という事である。


「人族や魔族との違いは?」

「そちらも曖昧です。ただ、こちらに害をなす存在であれば、かつて魔族と呼ばれていたとしてもモンスターと呼ばれますね。もっとも、人族は魔族と魔物、モンスターの全てを同一視しているようですが」

「……ペットとかは?」

「危険なモンスターより、普通の動物を選ぶでしょうね」

「あ、動物もいるの」


 てっきりモンスターやら魔物やらしかいないと思っていたが。

 あ、もしかして、この馬車も元は馬を使っていたのかもしれないな。そこから、何らかの理由で鳥に切り替えてそのままなのかも。


 あの鳥の魔物はビードゥルヴェ。略称はビードで、種類が豊富なのだそうだ。食肉用からペット用の小さい種、レース用に、中には飛べる種まで存在する。

 色も様々だが、その色によって出来る事が違ってくる。青であれば泳ぎが上手い。緑であれば足が強く、向かい風に屈しない。赤であれば炎の中を平気で駆け回る。

 中でも、白に近い種族は重宝されているとか。

 やはり、女王であるフィオルの髪色に関係しているのだろうか。


「白は神聖な者の証ですからね。フィオル様の髪はもちろん、白いビードは特に賢く、喋る事はありませんが魔法を使う事ができるのです」

「それは……! 凄い、のか」

「当然です! 魔法とは『願い』だとか『想い』といった感情に左右される力。それに加えて、知恵も必要ですから! ビードの始祖は白かったらしいですが、そこから色々と派生して、今では白いビードがめっきり減ってしまったそうですけどね」


 魔族の間では、白という色が王族を表す高貴な証。それに次いで黒、青と続いていくそうだ。

 ちなみに、黒未満の色から最下位手前の色までは序列が入れ替わり立ち代わりが目まぐるしいそう。しかし最下位の色は灰色。

 ハッキリとした理由は不明なのだが、最も有力な説は、白と黒の境目というどっちつかずな点が魔王様のお怒りに触れたのかもしれない。らしい。

 白が絶対的な色だとして、たしかに、その次色である黒を、絶対的な白に混ぜるとは何事だ、ってなりそうだわ。

 だが、この馬車が黒い理由が分かった。白い馬車は多分、王族しか使えない。その次点である黒を使ったのは、俺達への最大限の敬意の表れなのだ。

 妙に納得して、話を元に戻す。


「人族は、魔族と魔物を同一視しているのか」

「ええ。こちらで言えば、人族とドラゴンを同一視しているようなものですが」


 ドラゴンが引き合いに出されたという事は、ドラゴンはモンスターなのだろうな。


「魔族は人間、だよね。フィオルちゃんやルディ君、人間にしか見えないもの」

「あ、はい。僕は比較的、人族の姿に近いですからね。……そもそも、魔族とは『魔力適合率の高い一族』の略称だと聞きますし」

「魔力……何て?」

「魔力適合率の高さ。要するに、魔力を水にたとえて、その水の中で泳げるかどうか。と言えば分かりやすいでしょうか。人族は多すぎる魔力に中毒を起こしてしまうそうです」


 そこから聞いた話をまとめるとこうだ。

 まず、この魔王が統治する魔族領というのは、空気中に漂う魔力の濃度が濃いらしい。そして、人族領では魔族領の100分の1程度しか魔力の無い土地で生まれ育つ故に、魔族領の魔力に中てられてしまう。そのため人族領では、魔族領の事が毒の大地と呼ばれ恐れられているようだ。

 とはいえ、空気中の魔力濃度がどうであろうと、使う魔法の威力はさほど変わらないようだ。

 問題なのは精霊濃度という、またもや聞きなれない専門用語わけだが……。


 魔法を使うときに必要な魔力。それは、元を辿れば、この世界で最も原初的存在、精霊に行き着く。魔法とはその精霊に、魔力という力を与えて発動させるものである。

 精霊は、精霊以外の物質になってしまうと、精霊としての働きが出来なくなる。故に、魔力濃度がいくら高くとも、空気中にいる精霊濃度の高低で魔法の威力も変わるわけだ。

 うーん、この話を聞いていると、人族が一方的に魔族を嫌っているだけのように思えるな。


「人族が言う事も分かりますけどね。人族は、肌や髪色は違っても、とりあえず同じ形をしている。それに比べ僕達魔族は非常に多種多様。僕のような人族に近い亜人から、二足歩行の獣にしか見えない獣人。鋭い牙と羽を持つ吸血族や、水の中でも永遠に息が出来る魚人族もいます。モンスターよりも知能に優れている分、驚異的でしょうね」


 ルディは顔に影を落とし、雲1つ無い青空を見上げた。

 こちらの季節は秋。地域によってはずっと冬だとか、夏だとかって場所もあるらしいな。

 アヴァロニアは、どうやら日本と同じ気候のようだ。ただ夏は比較的涼しく、冬の寒さが若干厳しいという、北海道仕様のようだ。

 秋という季節があるのは俺達の世界と同じ。おまけに俺達の時間感覚と同じ。


 こちらの世界でも、紅葉は美しい。

 赤や黄色、中には緑の残った樹も見える。街中から郊外に至るまで、その美しいグラデーションは続く。色合いの淡い部分が重なって、真っ白なルディと重なる。

 哀愁の漂う、とはこの事か。壁にもたれかかったルディは、耳は立っているが、確かな物悲しさを漂わせていた。


「あ、そうだ。今から向かう場所にはスライムがいますよ!」

「え、スライム?」

「はい。スライムは弱いですし、リスクが少ないですから」

「リスク、ね。たしかにケガを負うリスクは少ないが……」

「あ、ケガに関してはするはずも無いですね」


 ……はい?

 いくらスライムでも、攻撃1回につきHPを1くらいなら削れるのでは?


「実は、レベルを急激に上げすぎると―― 物凄くお腹が空いてしまうので」

「「へ?」」


 レベル。

 それは単純に、人生の中で積み上げた経験値そのもの。その経験値の得方は様々。

 食べ物を食べる。モンスターを倒す。戦闘訓練をする。勉強する。とにかく歩きまくるなど、それこそ、人生で得る経験の全てがレベルとして見る事が出来るのだ。

 しかし、歩いたり、戦闘訓練をしたり、食べ物から得られる経験値は微々たる物で、レベルが10に届くと急激に伸びが悪くなる。


 しかし、モンスターを倒す経験値は、モンスターの強さによって得られる経験値が変動する。誰もが決まった経験値の量を得られるわけではないらしいが、それでも一定以上の経験値は得られるそうだ。

 たとえば、今話題に出されたスライム。このスライムから得られる経験値の基本値を10として、レベルが1から2に上がるために必要な経験値が7だとする。よほど経験値の入りにくい体質で無い限り、スライム1匹でレベル2になれてしまうのだ。

 更に言うと、賢者及び異世界からの来訪者には、どうやら経験値のボーナスが付くらしい。


 そのため、スライム1体を倒すだけで、人によってはレベルが3になってもおかしくないのだとか。

 さすがに何体もスライムだけを倒していると、いずれは効率が悪くなる。スライムだけで上げられる最大限のレベルは10。それ以上は非常に経験値が入りづらくなる。

 だからと言って、スライム以外のモンスターを倒してレベル20とかになったとする。


 そうすると……ルディ曰く、物凄く腹が減るらしい。


 経験値を得る事は、身体が急激に成長する事。その成長に合わせて、身体が栄養を求めるそうだ。急激にレベルを上げるとしても、元のレベルとの差は10に抑えたほうが良いとのこと。

 ちなみに、ルディはその事を知らずに、レベル1からレベル25まで一気に上げてしまった事があるそうだ。どうりで言葉に重みがあるわけだぜ。


「というわけで、どう足掻いてもレベル10で留まるスライム退治に行くわけです」

「へえ。で、これはどこに向かっているんだ? スライムを倒すと聞いてから、どうせ街中ではないだろうと踏んではいたが」

「あ、はい。スライムはモンスターの中でも無害に近いので、それの養殖場に」

「養殖、場?」


 モンスターの養殖なんてやっているのか?!


「スライムはある意味厄介な敵でして。レベルは上がらなくても、良い訓練相手になるのですよ。冒険者や兵達の訓練相手、あと、ケガするリスクは低いために子供達の遊び相手でもあります」

「……そのスライムが、俺達にとっての危険な相手とはな」

「今日で遊び相手にランクダウンします。僕がそうさせますから。そうだ! ついでに魔法の訓練なんかもしちゃいましょう!」

「魔法? あの、詠唱して放つ不思議な力か」

「私達の世界には無かったけど、炎を出したり、水を出したりするやつだよね! 無から有を生み出すとかっていうやつだよね!」


 ハルカさんが目をキラキラ輝かせている。

 一瞬だけ、ルディが気圧されたように耳を後退させるけど、笑顔は崩していない。おぉ、あの耳の動きは制御しているわけではないのか。

 考えている事が耳を見れば分かってしまいそうである。


「え、と。考え方はそうですね。自分の魔力=MPを与えて、精霊に形を与えるのが魔法ですから、傍から見れば無から有を生み出す行為ですね。そういう見方もありましたか……」


 という事は、違うのか。ああいや、そういう見方もある、ね。

 彼等の魔法に関する解釈、理解を頭に叩き込んでおいた方が良さそうだ。俺達が何をするにしても、この世界の人間にとって、魔法を使える事が常識なのだから、覚えておいた方が良いのだ。

 旅に出るにしろ、城に留まるにしろ、知っておいた方が絶対良い。

 便利そうだし。


「にしても、魔族か。さっき獣人とか亜人とかって言い分けていたが、同じ種族なのか?」

「大まかな区分けで言えば、全部魔族です。始祖は原初の魔王陛下。そこから当時の魔物達と交わって生まれたのが獣人や亜人。更に別種族との間に生まれた概念的存在が種族化したのが吸血族などの特殊な一族。元々この世界には5つの種族がいたらしいですし」

「5つの、種族」

「はい。ただ、その辺りはこの世界の創世記に関わる事項のためか、記録は少ないのです。かろうじて最初からいた種族が5つあったと伝えられているだけで」


 1つは人族。寿命は多種族に比べて短いが、繁殖力が高く、数が多い。その分同族間での争いごとが耐えない。いくつもの王族が存在するのも特徴。

 1つに魔族。種族内において、多くの種類が派生している。そのため同種族でも仲間意識が薄い事が多々あるが、実力主義のため魔王に従う者が大半。

 この2つが魔族内に伝わっている原種だそうだ。

 あと興味本位で聞いてみたが、ファンタジーでお約束のエルフやドワーフがいるのかを聞いてみた。

 いるらしい。


「俺達が知っているエルフやドワーフは、妖精の末裔らしい。妖精はいたのか?」

「妖精族、ですか。一応いますが、原種かどうかまでは伝わっていません。とりあえず、魔族の一部として数えられていますが……人族でも重宝されているので、確実な事はいえません」


 噂のファンタジー小説では、エルフは超絶美人。ドワーフは熟練の鍛冶師というイメージが強い。他にもモンスターであるゴブリンやピクシー、ハーフリングも、一応は妖精の血を引くとされる一族だ。


 エルフはかなり寿命が長く、ドワーフもそれなり。

 モンスターとなると寿命もかなり短くなるようだった。

 その類の質問をすると、どうやらこちらの世界でもそのとおりらしく、数は少ないがエルフはその長寿を活かして覚えた古代魔法が有名。ドワーフも、エルフほどではないが長寿。少なくとも1000年は生きるドワーフは、鍛冶の道を究める者が多いらしい。

 ただし、醜いモンスター代表のゴブリンや、お金を大量に落とすモンスターのハーフリングなんかは魔物に区分されていた。


 ゴブリンはあらゆる森の案内人、ハーフリングは小人族とも呼ばれる魔物で、とても手先が器用で装飾品製作や手紙の配達を請け負っているらしい。

 ハーフリングはともかく、ゴブリンが人に害をなさない魔物に区分されているとはな。驚いたぜ。

 ちなみに、ピクシーは記憶力が弱く悪戯好きで、時々蜂蜜を分けてくれるくらいの仲らしい。

 更に、ピクシーとは別にフェアリーという種族がいるようだ。


「ただし、ピクシーはモンスターですが、フェアリーは魔物です。ピクシーは、悪戯好きという悪評だけが一人歩きしていて、それが実際に被害報告として来ています。一方、フェアリーは悪戯好きというより臆病で、見た目は手の平サイズの羽がはえた小人ですね」

「わぁ、私達の言う妖精って、そっちのイメージだよ」

「むしろ、ピクシーもフェアリーも俺達にとっては同じ妖精って意味合いだな。英語に翻訳するとそうなる」

「フェアリーはいつかの時代に召喚された賢者様が名付けた種族ですから、そのせいかもしれません。本当に臆病なので、見る事はまれです」


 あ、なるほど。俺達の前にも随分と多くの賢者や勇者が召喚されていたからな。

 さすがに俺達がいた時代とは違うのだろうが、フィオルが言っていた前回の召喚は350年以上前の事。それも、その親父さんは3万年も生きていた。

 という事は、今の俺達が知る科学の文明と同等、というか、少なくとも俺達と同じレベルの言語が使える時代と世界から来ていたという事になるな。

 西暦なんてものが生まれて2000年と少し。それ以前は、場所によっては文字があったかも怪しい時代である。そんな時代から様々な進化を遂げて、今では顔文字だとかが生まれている。


 フェアリーやらピクシーやらは、そんな現代で通じる言葉だ。文字生まれたてのイギリスやらアメリカの人に言っても通じない。

 日本、という名前の国が無くとも、同じような文明、言語を持つ世界からこの世界へ召喚されているという事だ。この世界には魔法が存在し、見たところ、この世界の科学力は俺達の世界より劣る。だが何故、そんな別世界から召喚するのか。

 救世主を求めているなら、最初から強い魔法を使えるなり、機関銃を背負う冒険者なりを召喚すれば良いはずだ。


 言語レベル、および種類。科学レベル。魔法レベル。召喚における条件指定が可能である事は、俺やその前に召喚された者達の残したもので証明されている。であるならば、何故それを指定しないのか。召喚するのは世界の意思らしいが、ならば尚更おかしな話である。

 とはいえ、ここで答えが出るような問題ではないだろうしなぁ。

 それこそ、世界の意思とやらに直接聞きたい所だが、俺がこの世界に召喚される間際に聞こえて以来全然聞こえてこないからなぁ。

 ここは、話題を変えておくか。


「スライムはモンスター、という事は、スライムにはこちらに敵意があるという事か?」

「あ、それは違います。スライムは知能が無く、こちらと会話する能力に欠けているのです。言ってしまえば、空気中に浮かぶ魔力が液状になり、それが僅かな意思を持って動き始めたのがスライムですから」


 いわゆる魔力生命体、というらしい。身体が魔力で構成された、ある意味実体の無い生命体。それが魔力生命体。ゴーストやデーモンなんかがこれに当てはまると言う。

 幽霊というものは、本来であれば人の目に映らない。しかしそれが何らかの理由で魔力による実態を得たものがゴーストと呼ばれている。更にそれが死人の肉体を得る事で、リッチやスケルトン、ゾンビと呼ばれるようだ。

 ただし、ゾンビはあくまで『人為的に』作り出されたモンスターであり、作り出した術者の命令に忠実に従う。そのため、術者の性格によって敵味方に分かれる。リッチは自然発生型のモンスターで、刺激しなければ襲ってこないとのこと。

 こういう類のモンスターはアンデッドという種類のモンスターなので、どれも聖水や聖火などが効くそうだ。聖なる~というやつが効くみたいだな。

 しかし、聖火を攻撃に使う、か。聖なる風とか、土とかもありそうだな。


「じゃあ、別に動物と接するみたいに付き合えるわけか」

「……たしかに、僅かな時間であれば触れていても害はありませんが、数分間触っていると、徐々に身体が溶けてきます。これはどうやらHPに関連しない攻撃のようでして、知らない内にスケルトンになってしまっていた、という伝説が残っています……」


 うわぁ。


「それは、苦痛を伴わない、という事か」

「その伝説では、スライム、というよりも、スライムが『進化』したモンスターが出てきたのですが、そのモンスターには多少の知能があったようでして」


 ちょっと待て、何か今、聞き逃してはならない単語が聞こえたような。


「そのモンスターは、とある人物の従魔をしていたらしいですね。しかしある時、その主が不意打ちをくらいそうになった時、モンスターは咄嗟に主を自分で包み込んだらしいです。スライムの身体は液状の魔力。液状の部分を活かして、色々な攻撃を吸収したのですが――」

「あぁ、中にいた主の肉体が溶けてしまった、と」


 グロイ話だった。

 それも、苦痛を伴わないわけだろ? 知らない内に骨人間になっていたとか、シャレにならん。


「あ、でも、痛みを感じなくなった身体で大盗賊を倒すというお話でしたよ」


 良い話だった?!


「あぁ、それで。先程出た『進化』についてお話しましょうか」

「それな。気になっていたんだ。聞かせてくれ」

「はい! えっと、モンスターや魔物は、人間ではありません。その証拠に、人間であれば何代も重ねなければならない進化を、条件さえ満たせば一夜にして完了させる事が出来るのです」


 例のボールが出てくるゲームみたいだな。一定のレベルや特定のアイテムを使う事で、元の姿とは全く別の姿に進化するやつ。

 より環境への適応力が高まったり、元は飛べなかったのに飛べるようになったり、とてつもなく大きくなったり、花が咲いたり。


 とはいえ、進化はそうそう起こるものでもないらしい。急激に力を付けられる何かが無い限り、進化という現象は起こりえないそうだ。

 今度、モンスターについてじっくり調べてみようかな……。

 なんて感じの話をしている内に、俺達はある場所へ辿り着く。



 それを見て、俺達は言葉を失う事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る