第275話 もう一人の人魚姫……(12)

 だが、私が思案をする時間は、そんなに長くはなかった。なかったのだ。だって直ぐに声が。それも? 『亜紀』と、家の姫様が名前を読んで居る女性ではなくて。


「シ、シルフィーヌ……。な、何、ここは……?」と、男性。殿方の声色で、家の姫様を名指し。それも? 家の姫様の事を驚愕した声色で呼ぶ男性だから。


「ひ、姫様―? な、何故? お、男が。男性の声が、ではなく。殿方の声が、姫様のクローゼットの部屋から聞こえるのですか?」と。


 私は家の姫様に驚愕しながら訊ねたのだ。


「えっ? ああ~、それは~? あのひとが~。私(わたくし)の主人、夫だからいるのですよ~」と。


 家の姫様は私の驚愕しながらの問いかけに対しても。やはりこの通りで、全く気にもしない。していない様子で。


「どうしたのですか~? あなた~? クローゼットの部屋から大きな声を出して~。早くこちらにきて~。みなに挨拶~。挨拶をしなさい~。今日から~。あなたが~。このお城の主~。一族の長に~。長になるのだから^。早く~。こちらにきて~。挨拶をしなさい~。あなた~」


「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ~。シルフィーヌ……と、いうか? な、何これは~? あ、亜紀ちゃん~。ちょ、ちょっと見てよ! 見て~! これを~?」



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