第65話 幼少期の大変に不思議で恐ろしい経験……(16)

 でないと?



 親戚のおじさんやおばさん達が、僕へと何度も告げ、諫めてきた通りに。僕とコウちゃんの二人は、冥府! 黄泉の世界! あの世へと連れ去られて、神隠しに遭うようになってしまう。


「僕達も逃げよう。コウちゃん」


「うん、分ったよ。新ちゃん」


 僕達二人は、お互い顔を見合わせて、更に「うん」と頷き──。


 その場から、もう既に逃走を計った仲間達の後を追うように、慌てふためきながら。この場から立ち去る。と、言うことができないのだ。


 だって僕は、コウちゃんと顔を見合わせ、『うん』と、頷き。己の顔を上げてみると──。


 もう僕の目の先──と、言うか?



 コウちゃんの背──シャツに向けて、黒い異物──。


 多分? 物の怪、妖怪、幽霊と呼ばれる女性の魔物の、小さくて、漆黒の闇色の染まった掌が、僕の仲間であるコウちゃんの背のシャツへと伸び──掴もうとしている様子が。僕の両目に映ったから。


「うわぁ、あああ~。で、でたぁあああ~」


 と絶叫を放つ。


「コウちゃん早く逃げてぇえええ~。お化けがぁあああ~。コウちゃんのすぐ後ろにいるからぁあああ~。早く~。早く~。逃げてぇえええ~」


 僕はコウちゃんに直ぐに駆け足で、この場から立ち去るようにと呟く。もう君の直ぐ後ろに物の怪がいるからと。


 と、なれば?



 コウちゃん自身も困惑、動揺……どころではない。


 彼は完全にパニック状態へと陥り。


「うわぁあああ~。助けてぇえええ~。誰かぁあああ~」と。


 泣き叫びだしたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る