妖魔退治完了
リュウは拳をかわすために
猿の猛攻の勢いに負け、リュウは薙刀を引き抜きに行けない。拳をかわすのが精一杯で、猿の元へと向かう余裕がない。
(仕方ない。上手くいく保証はないけど)
猿の猛攻を紙一重でかわしながら。リュウは冷静に思考していた。現時点で出来る最善の選択をすべく、動く。
リュウの
最初は強風にもビクともしなかった猿。だが少しずつ確実に、猿は強風に押されて後ろへ後ろへと下がっていく。リュウとの間合いが開き始めた。
その一瞬の好機を逃すはすがなかった。僅か一瞬の隙を突いて、リュウは猿の腹に刺さったままの薙刀の柄を掴む。
薙刀を引き抜こうとしたリュウの顔が歪む。右足に負った怪我が痛むからだ。さらに、猿の拳がリュウに着々と近付いていた。
薙刀が勢いよく引き抜かれる。それと同時に猿の拳が、裸足になっているリュウの右足を襲った。爆発音と共にリュウの身体がフェイの所まで飛ばされる。
フェイはリュウの身体をなんとか受け止めた。そして怯えた目で猿を見る。だがフェイの人間の目では猿の異変をはっきりと捉えることは出来なかった。見えていれば叫んでいたであろう。
腹部に穴の空いた猿は、大量に出血していた。そのせいか体毛は元の茶色に戻り、その場に力なく倒れる。息が絶えるまでそう時間はかからないだろう。
フェイの視線はリュウの右足へと向かう。焼き焦げて穴の空いた靴は戦いの途中で脱げていた。攻撃を受けた足の甲は赤く腫れており、皮膚の一部が剥がれている。
本来であれば急いで患部を冷やすべきだ。だがこの場には冷やす物はない。それどころか、サザナミへの帰り方すらわからない。
「フェイ。とりあえずサザナミから人を――。な、何をしてるの?」
フェイはリュウの指示を聞く前に、リュウに肩を貸した。サザナミに帰って人を呼ぶのでは間に合わない。一刻も早く応急処置をする必要がある。
「人を呼ぶ前に治療が先でしょ! こんな酷い怪我して何言ってんのよ!」
「
「そんなの手当してからだって出来るでしょ? ほら、肩を貸すから一旦帰るわよ。エミュに診せなきゃ」
「そっか。そう、だね。……フェイ、僕の手をしっかり掴んでてね」
リュウは薙刀の穂先から刃を消すとフェイに手を差し出した。意味もわからないままその手を掴めば、フェイの身体がふわりと宙に浮く。
リュウがフェイの手を掴んだまま空を飛んだのだ。薙刀はいつの間にか背中に背負われている。痛々しい右足は、見るだけで辛い。
「怖いなら目を閉じて。この方が早く帰れるから」
フェイにそう告げると、リュウはサザナミに向かって空を飛ぶ。確かにこの方が変に山道をさ迷うよりも早い。
二人がサザナミ着くまで僅か五分ほど。場所さえ分かれば、リュウの翼があれば非常に近い。
リュウはサザナミの近くでフェイを降ろすと、翼をしまう。翼で妖魔と間違われることだけは避けたかったからだ。サザナミの入口では町長やエミュを含む何人かが待っていた。
リュウの怪我に気付くや否や、エミュは安堵するより先に治療を始めた。応急処置をしてようやく安心したようにフェイを抱きしめる。
「まだ後片付けが残ってるから、行ってくるよ」
「お前、馬鹿か? その足で無茶したら……」
「じゃあエミュ達に後処理出来る? どうせ、報告書を書かなきゃいけないからね」
右足の怪我が痛いはずなのに、リュウは笑っている。そんなリュウを見たエミュはリュウの右足の近くを軽く叩く。リュウは痛みに顔をしかめた。
「町長。暗いけど人、出せるか? こいつを妖魔の場所まで連れてく必要がある」
「足場は良くないぞ?」
「なら、人に担がせりゃいい。治療はまだ終わってないんだ。無茶させるのは反対だな」
「……わかったよ」
リュウは妖魔の後処理のために町民に運ばれ、山の中へと戻ることとなった。もう、夜は明け始めている。空の一部がオレンジ色になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます