その正体は皮肉にも

 リュウは袖のない上衣を脱ぎ捨てた。リュウの筋肉質な身体があらわになる。右腕の刺青をスッとなぞれば、リュウの背中に一対の鳥のような黒い翼が生える。


 フェイは思わず目を疑った。目の前で何が起きているのか理解出来ないからだ。そんなフェイに気付いていたのだろう。リュウはフェイに笑いかけた。


「ごめんね。僕は人間じゃなくて半妖はんようなんだ」


 ふわりとリュウの身体が空を飛ぶ。薙刀なぎなたを持ったまま、猿の姿を見据えた。その翡翠ひすい色の目は少しも笑っていない。


 痛めた右足を使わないからだろうか。翼の生えたリュウの動きは、それまでより滑らかで無駄がない。なにより猿の攻撃への反応が遅れていない。


 猿が間合いを詰めて拳を振るう。だがリュウはその全ての攻撃を華麗にかわしてみせた。薙刀を握る左手の力が強くなる。


 その時、フェイの目は不思議なものを捉えた。リュウの持つ薙刀の刃が光をまとっているように見えたのだ。夜の闇では人の目に刃まではっきりと見えるはずがないというのに。


 リュウが猿との間合いを開ける。そして薙刀で三度空を裂いた。その剣撃に合わせ、三つの弓状の光が猿に向かって飛んでいく。放ったのは斬撃。特殊な薙刀で斬撃を飛ばしたのである。


 リュウは不思議な攻撃を放つや否や、地面すれすれを滑空。一気に猿との間合いを詰める。薙刀の柄を両手で握りしめた。


 リュウが薙刀を下から上に振り上げる。猿は少し下がることでそれをかわした、はずだった。だが猿の足がやや深めに裂け、血が流れる。


 斬と突を絶妙なタイミングで合わせた技だ。猿がリュウの攻撃を紙一重でかわすことが多いのを利用した。





 リュウの一撃を受けて猿は雄叫びを上げた。その声の大きさにフェイは思わず耳を塞ぐ。リュウの眉間にシワが寄ったのが、遠目からでもわかった。


 猿の茶色い体毛が、皮膚が、赤く変色する。熱を発しているのだろう。体から湯気が上っているのが遠くからでもわかる。妖魔ようま特有の能力なのだろうか。


 リュウの視界から一瞬猿が消えた。刹那、猿の拳と熱気がリュウに襲いかかる。慌ててかわすも間に合わず、右足に拳が当たった。


 リュウの右足の近くで爆発が起きる。その勢いでリュウはフェイの近くまで飛ばされた。攻撃を受けた右足は靴が焼き焦げ、足に火傷を負っている。


 その傷の痛みに思わず顔をしかめるも、再び猿に向かっていくリュウ。その手にはしっかりと薙刀が握られている。


 リュウが薙刀を猿の脳天に向けて振り下ろす。それに合わせて、猿は先程よりも速く拳を振るった。しかしリュウも先程の一撃で学習している。


 拳が放たれた瞬間、リュウの翡翠色の瞳は蝋燭の火のように発光した。それと同時にリュウから拳に向かって強風が吹き、風が拳を押し返す。


 拳を押し返したリュウは先程よりも素早く薙刀を振り下ろす。薙刀の刃が猿の頭を裂いた。


 そのまま一度左足で着地するとすぐに跳躍。攻撃に驚いた猿の腹を薙刀で鋭く深く突く。しかしリュウが薙刀を引き抜く前に猿の拳が再びリュウを襲った。

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