第10話 小太郎の過去

 二人で西に向かうと、次第に死の臭いが濃くなってきた。


「本当にこの先に悪魔がいるんですか?」

「たぶんな」


 言葉を交わしながら黙々と歩く。


「……コタロー」

「ん?」


「手、つないでもらってもいいですか?」

「え? ああ、いいぜ」



 そうだった。ゆっくり歩いてやらないとな。



「コタローは、怖くないんですか?」

「何が?」


「コタローも人間でしょ?」

「そうだけど?」


「こんな世界にきて、絶望を感じないんですか?」

「意味がわかんない」


「だって、誰もいないし、何もないんですよ? 何のために――」

「お前がいるじゃん」


「は?」


「お前がいてくれるだろ?」


「な……何を言ってるんですか? こんなところで」


「誰も見てねーよ」


「そ、それはそうですけど、悪魔とか、怖くないんですか?」

「怖くないね」


「なんで? なんでそんなに強いんですか?」

「強くもないな」


「もー! わかんないですよ! それだけ強くて、それだけ――」


「優しくなんかねーぞ。俺は」


「え?」


「こんな虐殺マシーンが優しいわけねーだろ?」


「虐殺マシーン?」


「何百万も殺してるからな」


「悪魔を……ですか?」

「そうだな」


「一人で?」

「そうだよ……と言いたいところだけど、俺にも昔、仲間がいてね」


「仲間?」


「あのDCデータセンターがダンジョンだったころ、俺たち10人で攻略したんだ。その宝珠を探して世界を救うためにね」


 ミオと歩きながら、俺は5年前の戦いを思い返していた。


「今は? 他のみなさんは今、どうされてるんですか?」


「さあね。本当のことをいうと、そこまで仲が良かったわけじゃない。そりが合わない奴らも根っからの嫌われ者もいた。みんな能力は凄かったけど、プライドも高くてチームワークは最悪だったな。道久ってリーダーがなんとかメンバーをまとめてくれていたんだが、最後の戦いで犠牲になっちまって……。だから宝珠を持ち帰ったときも俺たちは素直に喜べなかったというか、その後は自然消滅した感じだな。いまだにあそこにいるのは俺だけさ」


「嫌われ者って、コタローのことじゃないですよね?」


「どうだかな。正義感が強いやつと自己主張の強いやつの間に入って、コウモリさんみたいな立場だったから、影では俺が一番嫌われていたかもね」


「そんなことないです! コタロー、いい人です。いい人すぎますよ!」


「いい人だったら悪魔を何百万も殺しやしねーよ」


「相手が悪魔だったら殺したってしょうがないじゃないですか!」


「あながちそーでもない」


「え?」


「神とか悪魔とか、善とか悪とか、相当くだらねー話だぜ。あそこにいたらわかる。この世の中、下手な悪魔なんかよりおかしい奴がいっぱいいるんだって」


「そうなん……ですか?」


「俺もその一人かもしれねーけどな。それより、あれだ」


 俺があごをしゃくった先に、高くそびえる塔の影が見えてきた。

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