第8話 大地の宝珠

 目覚めた俺は、いつの間にかいなくなっていたエリちゃんのことが気になりながらも、ギンギンな状態を継続したまま、ミオを連れてDCデータセンターに入った。


 そういえばここのミオの入所許可って、神龍は手配してくれているのだろうか? 俺は何もしていないが?


「大丈夫です、二名様で伺っております」


 あ、そうなの? よかった。


 そのまま台車を一つ借り、ミオを乗せると、俺はエレベーターの6階のボタンを押す。


「いいか、この台車からは絶対降りるなよ? 下手に動いたほうが危ないからな!」


「うん、わかった!」


 ミオがしっかりとうなずくが、正直あまり信用していない。

 強敵と当たらなければいいが……




 ――チーン♪




 エレベーターが開き、現れたモンスターは、だった。


「えっ?」


 びっくりしたミオが声を出すが、俺はいつもどおり台車をフロアの隅に移動させる。なんのことはない、ただのドッペルゲンガーだ。モンスターとしては弱い部類。ミオさえあわてなければ。ミオさえ……


「なんで私がいるのよーっ!!」


「だから動くなって!」


 台車の上で立ち上がって暴れるミオを押しとどめ、フロアの角に台車を固定しながら、後ろから襲い掛かってくるドッペルゲンガーを蹴りでしとめる。



 ――ギャアアアアッ!!



 俺の姿をしたドッペルゲンガーは胴体を切り裂かれると、叫び声を上げて消えていった。あと一匹、ミオの姿をした奴は、顔をゆがめると、後ろを向いて仲間を呼ぶ。


 すると……


 ミオの姿の敵がなんと、追加で3体まとめて現れた。



「どゆことー!?」

「いいからお前は動くな!」


 そう言うと同時に俺は先制攻撃に出て、前にいた2体を手刀で切り裂いた。そしてすぐに相手との距離をとるためバックステップで下がる。


 後ろの敵は俺が元いたところに飛びかかっていた。そして、攻撃が空を切ったことに気がつくと再び俺たちに目を向け、左右に分かれてじりじりと近づいてくる。


 複数の相手を目で追うことが難しいと考えた俺は、台車に載ったままのミオの腕を掴んだまま、襲い掛かってくるドッペルゲンガーをカウンターで蹴散らす。


「ヒィイイイイイ!」

「ギャアアアア!!」

「どひえーっ!!!」

「お前はだまってろーっ!!!」


 なんとかすべてのドッペルゲンガーを倒した俺は、ほかのモンスターが集まってくる前に急いで台車を押した。




 ☆☆☆




『宝珠は元通りC-6に復旧させた。手を触れさえすれば異世界に転送されるはずだ』


 神龍が厳かに言った。


 俺はうなずくと、ミオを乗せた台車を押して中のフロアに踏み込む。無駄話をしている余裕はない。宝珠が設置されたことをモンスターたちが突き止めたとなれば、当然のようにその付近に群がってくるだろう。それより早く動かねば。


 神龍がここで宝珠を手渡してくれればよいのだが、そんなサービス精神を求めるのはお門違い。ここはそういうところなのだ。



 C地区に入るためにはダークゾーンを通らなければならない。ダークゾーンとは、文字どおり明かりが一切入らない、モンスターに遭遇する可能性が高い場所だ。俺にとっては通い慣れた道だが、ミオを連れて通過するには一抹の不安が残る。


「静かにしてろよ、そして、台車から絶対に降りるな?」


「うん! わかった」


 小声で念を押すと、俺は暗闇の中に足を踏み入れた。





 そのまましばらく歩くが、モンスターの気配はない。

 ミオも目を閉じているのかじっとしているようだ。

 闇の中、俺たちの台車の転がる音だけが聞こえる。



 あと少しでダークゾーンを抜ける、そのとき



 突然の右側からの殺気に、俺は台車を停めて身構えた。





 ……フェイクか?





 このパターン……敵も忍者だな?





 ……前から一人……後ろから一人





 暗闇の中、相手は忍び足でぎりぎりまで俺たちとの間合いを詰めようとしている。





 ……刀を構えたな





 今だ!





「きゃっ!!」





 俺はミオを抱きかかえ、横に転がる。その瞬間





 ――ガキィン!!


 忍者たちの刀が台車を叩く音が響いた。それだけで十分だった。


 相手の位置を把握した俺はやつらの背後から襲いかかり、手刀で首を切り飛ばす。


 そして震えるミオのところに戻って抱きかかえると、出口に向かって走った。


 モンスターを引き寄せる血の臭いを振りまく台車に少女を乗せるわけにはいかないからな。




 ☆☆☆


 


 ダークゾーンを抜けた部屋の中央に台座が置かれ、その上に光り輝く直径10cmほどの球体が鎮座していた。


「これが……大地の宝珠?」


「ああ、俺が過去に見たものと同じだ」


 手に取るよう、ミオにうながす。


 意を決した彼女が歩を進め、その光に触れようとしたとき、俺の背筋に冷たいものが走った。


「待て! 取るな!!!」

「え?」


 だが、俺が引き留めようとしてミオの肩に手をかけたそのとき、彼女はすでに宝珠に触れていた。


 トラップにひっかかったときの嫌なメッセージが脳に流れる。




 ――おおっと テレポーター!!

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