第6話 本当の俺
エリちゃんが鍋の準備にかかっている間、俺は風呂に入ることにした。
間が持てない。
というか俺は正直、引いていた。
こういったシチュエーションに慣れていないのだ。俺は職業柄、普段から目立つような行動をとらない、地味で存在感の薄い、冴えないモテない男であり、女性と接するのが苦手な非リア充の最たる人間なのである。最近になってエリちゃんと知り合うまで、俺を相手にしてくれる女性はいなかった。というかエリちゃんだって風俗嬢だし、よくしてくれるのは商売上のことだと思ってた(ちなみに「チェンジ」とか口にしたことは一度もない)。
……そんな俺の部屋に今現在、女がいる。それも二人。それも夜更けに。
ついに俺にもモテ期というやつが来たのだろうか?
それとも、神と悪魔の戦いがこれからこの部屋で始まるのだろうか?
そんな不安が頭をよぎるなか、おそるおそる風呂から出た俺にエリちゃんが言った。
「遅かったわね。鍋、もう全部食べ終わっちゃったわよ」
キッチンにもテーブルにも、何も残っていなかった。
なんだかんだでミオがガツ食いしたらしい。
「ふ、二人分しかなかったからしょうがないんだよ~」
お腹が張っているミオが弁解するが、俺は何も言う気が起こらなかった。
「じゃあ私もお風呂入るね」
エリちゃんがバスルームに入った後、一人片づけを始めた俺の後ろからミオが申し訳なさそうにつぶやく。
「コタロー、まさかあの人と付き合ってるわけじゃないよね? あの人悪魔だよ?」
「その悪魔にご馳走になっておいて、お前は何が言いたいんだ?」
「コタローみたいにモテない男の子をたぶらかす悪魔なの! 貢いでたんでしょ?」
「人聞き悪いな。そんなお前だって『死神の目』持ってるんじゃないのか?」
「違うって! これでも私、神に仕える
そんなことをくっちゃべっているうちに、エリちゃんが風呂から上がり、入れ替わりでミオが入る。
「あの子異世界から来たんでしょ?」
「うん。そうらしい」
洗い物を終えた俺はテーブルでお茶を飲みながらエリちゃんに答えたが、よくよく考えたら彼女も謎だよな。
「仕事なのかしら?」
「まあ、そうみたいだな」
「なら優しくしてあげないとね」
「エリちゃん、怒ってないの?」
「怒るも何も、かわいい子じゃない。必死で」
「…………」
「服部くんは渡さないけどね~」
そう言いながら後ろから俺に抱きついて甘えるエリちゃん。
シャンプーの香りを漂わせながら、うろたえる俺の耳元で
「今のうちにしよっ――」
――ガラッ!!
「あ、いや、ミオ、なんでもない! 何もしようとかしてない……ですから……」
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