第4話 神龍の判断

「ふぅ……終わった……」


 俺が汗をぬぐい、モニターの電源を落として振り返ると、ミオと名乗るエルフ娘(仮)がじーっとこちらを見ていた。


 ただ……実際はエルフなのか、かなりあやしい。格好は確かにエルブンメイジなのだが、背はかなり低いし、ずんどうな幼児体系で丸顔だし、肩にかかるくらいの赤茶けた髪から耳がにょきっと出てるけど、イメージで言うとエルフというよりホークルっぽい。年齢は不詳だが、14、5才前後か? もちろんエルフだったら年食ってる可能性もあるのだが、精神年齢的に――


「ねーねー、これからどこ行く~?」


「え……っと……俺と?」


「なにいってんの~? いっしょに帰るでしょ?」


「は? どゆこと??」


 意味がわからず俺が聞き返すと、手を広げて思いっきりため息をつかれた。


「私だってお兄ちゃんが話を聞いてくれてないことには気づいてたけどさ、こんな危険なところにカワイイ女の子を置いてっちゃうつもり?」


「あのな、いったいお前、ここに何しに来たんだよ」


「えーっとね、まじめな話をすると『大地の宝珠』を取りにきたの」


「……ここにはねーぞ、その宝珠」


「えええ? どしてー?」


「SUMIKAWA本社に持ち帰ったから。俺が」


「う、うそでしょー?」


「マジだよ。証人もいるぜ」


「だけどそれ、どうしても必要なの! なんとかならないかな~?」


 心底困ったような上目づかいで、俺に向けて手を合わせやがった。


「……あれが必要ってことは……災厄がらみか?」


 大地の宝珠――災厄をもたらす自然エネルギーを鎮める力を持つ宝玉。世界が崩壊の危機に瀕したとき、その創造物クリーチャーは力を解放し、混沌の世界に秩序をもたらしてきた。


 もちろん伝説なんかじゃない。


 昔――といっても5年ほど前のことだが――ここがDCデータセンターとして活用されることになる前、俺を含む数人の調査隊パーティがここに潜入し、宝玉を持ち帰ったことは公には知られていない。


 だがあの時、俺たちが任務に失敗していたら、この国は消滅していただろう。


「ってことは、お前の世界もヤバいのか?」


 俺が聞くと、ミオはこくりとうなずいた。


「だけどさ、お前一人でここに来て、どうにかなるとでも?」


「だって~、魔法が使えないなんて、知らなかったんだもん……」


 そう言ってうつむくところを見て、少しカワイイと思ってしまった。


「……しょーがねーな。とりあえず、神龍に聞いてみるか」


 俺はキャンプを片付けると、台車にミオを乗せて、戻ることにした。



☆☆☆



「ということらしいんだよ」


 俺が神龍に一部始終を話すと、彼は俺に疑いの目を向けた。当然だ。さっきからこのミオとかいうエルフ娘が俺の手を掴んで離さないのだ。こいつの見た目が若すぎるせいで、俺が神龍に犯罪者扱いされていてもおかしくはない(と自分でも思う)。誤解は解いておかなければ……


『小太郎、貴様にそういった趣味があったとはな』


「だから違うってば!」

「ううん、違わない。コタロー、風俗大好き! ロリっ娘大好き!」


 横からミオに口出しされ、俺はあわてた。


「なんで知ってんだよ!」


「だってこのスマホの待ち受け画面」


「勝手に見るなーっ!!!」


 こんなところでデリヘルのエリちゃんと俺のツーショットを暴露すんじゃねーよ!


「っていうか、なんでお前、こっちの世界のことにそんなに詳しいんだ?」

「私には神のご加護があるんだもーん」


 ない胸を張って威張られても、答えになってないのですが……


 俺がすきを見てミオの手からスマホを取り上げたとき、神龍が言った。


『協力してやらぬでもない』


「え? 何を?」


『その娘……の世界が危機に瀕しているのであれば、もう一つ「大地の宝珠」を準備してやらぬでもないぞ』


「ほんと? やったー!」


 ミオの表情が明るくなった。


『だが時間がかかる。3日ほど待ってほしい』


「えーっと……間に合うかな~」


 口調とは裏腹に、深刻そうな顔でうつむくミオ。


『ならば1日だ。それならばよかろう?』


 神龍が厳かに言う。だが、俺には何かひっかかるものがあった。


「あのさ、あんた前からそんなに優しかったっけ? まがりなりにも『中立の守護者』だよね? それにしてはこの娘に肩入れしすぎてねーか?」


『……そんなことはないと思うが』


「ひょっとして、ここで魔法が使えないことをこいつらの世界に周知してなかったとか? 宝珠がすでにないことも――」


『あ、いや……その……』


「へーい! コタロー、男だったらこまかいことは気にしないもんだぜ!」


 ふくれっつらのミオが俺の腕に、ぐいぐいとちっぱいを押し付けてくる。


 困った俺は、神龍に助けを求めた。


「そうだ、こいつ、このDCからは出られねーんじゃねーの? ここで預かってもらえねーか?」


『問題ない。屋外でも活動できるようにしてある。魔法は使えぬから貴様がついていてやれ』


「は? うそだろ?」

「キャー、本当にコタローにお持ち帰りされるなんてーっ!!」


 ミオさん、顔を真っ赤にして腕をブンブンふらないでください。っていうか神龍、面倒事を俺に押しつけやがったな?


「これは貸しってことで、いいよな?」

『貴様とわしの間にいまさら貸しも借りもあるまいが』


「……わかったよ。しょーがねーな。じゃあ明日こいつをここに連れて来ればいいんだな!」


 そう言って俺は台車にミオを乗せ、神龍の部屋を出た。

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