10,さよならだ、相棒
そして5回目のゲートの時間がやって来た。
魔王日高との決着の時だ。
異世界に飛んだ俺は、早速アイテムボックスから日高を取り出す。
「出してください……!」
防御結界に閉じ込めてある日高は、俺を悪意をむき出しにした険相で睨んでくる。
「悪そうな顔だな。やはりお前が魔王だったか」
「なにを言ってるんですか……! 私は勇者! あなたを倒します!」
「まだそんな戯言を」
「ケンジ……一体なにが起こってるのよ?」
「おお、アンヌか。お前の言うとおり俺は、神になったぞ」
アンヌに喜びの報告をしてやった。
四天王ハルファーを従わせたこと、元の世界を手に入れたこと、そして今、こっちの世界も救ってやれること。
だが、アンヌはうかない顔をする。
「ケンジ……どうしちゃったのよ……」
「なにがだ。最高の気分だぜ。てか、お前俺のこと好きなんだろ? 神の嫁にしてやろうか」
「……」
「ほら、こっちへこいよ。キスしたかったんだろ」
「やめて!」
抱き寄せようとすると、なぜかアンヌの平手打ちが飛んできた。
「なにすんだよ! いってーな!」
腹が立った俺はアンヌの髪を掴み、宙吊りにする。
「痛い……! 離して!!」
「ったく。何様のつもりだよ。ま、今から俺が魔王を倒すとこ見たら、惚れ直すぜ。見てろよ」
とりあえずアンヌは放り投げ、先に魔王を殺っちまうことにした俺。
「よう日高。今から結界ごとエクスプロージョンで焼いてやるよ」
「やめてください! 後悔しますよ!」
「後悔? するわけないだろ」
「……後ろを見てごらんなさい」
振り向くとそこにはアンヌがいる。
爺さんもいる。
そして街の住人であろう奴らも駆けつけていた。
そいつらは俺に向かって、武器を構えている。
「お、おい……正気かお前ら? 俺は勇者だぞ?」
「お爺ちゃん……みんなを連れて逃げて」
「ばかをいうな……お前一人で勝てる相手じゃなかろう」
「それでも、あたしはこの街を、この世界を守らなきゃ……」
「おいおい、お前ら何言ってんだ? 俺が今から魔王を――」
そこへ日高が俺に問いかけてくる。
「あなた……まだ解っていないんですか?」
「なにがだ」
「部下を力で支配し、権力で世界を支配し、恐怖で大切な人をも支配しようとする」
「……」
「もう、魔王そのもの」
……そんなバカな。
俺は異世界を救うために……
いや、自分のために……
俺は……
「魔王はあなたの中に転生したんです」
「うそだ!」
「完全には入れ替わってないようだけれど、どんどん心が侵食されているのでしょう」
「違う! 俺は……俺の意思でハルファーも、世界も手に入れたんだ!」
「……もしも、もしもあなたにまだ良心が残っているのなら……この結界を解除してください」
「解除したら、どうすんだよ」
「あなたを倒します」
「バカ言うな! なんで俺が死ななきゃなんねーんだよ!」
「この世界を……そして」
真っ直ぐな瞳で俺を見つめる日高。
「優しいはずのあなたを……救うために」
なんでこんなことになっちまったんだ。
現世の爆弾犯容疑者にして異世界の魔王疑惑。
全てを払拭する手段はこれだったのか?
仙人ケンジ。
いや、もうあの頃から……
俺は魔王に――
死にたくない。
だが、魔王にはなりたくない。
嫌われたまま、消えたくない……
覚悟を決めた俺は、結界を解くために右手を日高の方へ向ける。
しかし思うように体が動かない。
邪悪な心に操られていることを改めて認識する俺。
最後の力を振り絞るように呟く。
「……解除」
結界が解かれた瞬間、日高は俺に向かって飛びかかってきた。
その手に握られた剣は、俺の腹へと突き刺さる。
「ケンジ……!!」
アンヌは不安と恐怖が入り混じったような瞳でこっちを見ている。
……死ぬのか。
短い人生だった。
ごめんな、アンヌ。
ごめんな、ハルファー。
そして世界中のみんな。
ごめんなさい……
「……」
しかし、刺さったはずの日高の剣は、俺の体に触れた瞬間……
砕けていた。
俺の右手は日高の首を掴み……
何かを潰したような感触だけを残し、俺の意識は遠のいていったのだった――
異世界勇者は現世の魔王 すずろ @888
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