3,ちょっと待て今なんて言った? 違う!その前だ!
「さ、魔王はこっちよ」
ついてこいとばかりにスタスタと歩きだす美少女剣士。
「なあ……戦い方すら知らないんだけど、いきなりラスボスとか」
「あんたの世界には戦とか無いの?」
「少なくとも俺の暮らしてきた場所は無縁なところ」
「素敵ね……行ってみたいわ」
「機会があればぜひ」
「けど困ったわね、あたしも仙人って初めて見たし」
「えっと……君は」
「あたしはアンヌ。職業は魔剣士、属性は風よ」
俺も名前はケンジだと自己紹介し、握手を交わす。
アンヌは腰に携えていた剣を見せてくれた。
豪華な装飾のある鞘に収められた立派な剣。
「魔剣士って、魔法と剣を使えるとか?」
「ええ。あたしのほうが強いかもね」
「魔法教えてくれよ」
仙人って賢者みたいなイメージだからそもそも魔法に長けてそう。
「そこの木に向かって風魔法を放ってみるわ。見てて」
そう言うと彼女は、手のひらを5メートルほど離れた木の方へ向けた。
意識を集中しているのか、対象の木を睨むように立っている彼女。
「ウィンドブラスト!」
彼女の声とともに、手のひらから緑色の渦巻き風が飛び出す。
そして木の幹に当たった瞬間スパーンと切断され、そのまま横倒しになった。
「かっけー」
「こんなふうに初級魔法は、魔法名を唱えるだけよ」
「それだけ?」
「あたしの場合は風属性だから、風をイメージしながら手に意識を集中させる感じね」
なるほど、俺の場合は炎をイメージすればいいのかな。
「やってみる」
俺はそれっぽく木の杖をかざし、意識を集中してみる。
あ、火属性ってどんな魔法があったっけ。
RPGとかならファイアボールとか?
「……ファイアボール!」
すると杖の先に火の玉が出現。
それはみるみる大きくなっていく。
「え」
みるみるみるみる大きくなっていく。
それはそれは大きく、直径10メートルぐらいあるんじゃなかろうか。
やべえ。
「あっちに放って!」
アンヌが叫びながら指差す。
「わ、わかった」
その方向へ杖を振り、ドデカい火の玉を放つ俺。
もの凄いスピードで飛んでいく先にはお城があった。
「おいおい、まずいんじゃねーの……?」
「大丈夫、あれが魔王城よ!」
「なる」
案の定火の玉は目視1キロほど先にある魔王城に衝突する。
ドカンという音の後、やはり大炎上。
メラメラと大きな炎をあげて空をも茜色に染める。
「すごい魔力……さすがは異世界の勇者ね」
「ふ……ふっふっ、これ気持ちいな」
「とにかく今は時間がないから先へ進むわよ」
「今ので魔王倒せたんじゃないの?」
「確認してみないとわからないわ」
用心深いアンヌに手を引かれ、魔王城へ向かう。
1キロほど歩くと瓦礫と化した城が見えてきた。
「やりすぎだよな……これ」
焼け野が原に立ちつくす俺たち。
すると灰の中からもぞもぞ這い出てくる物がいた。
ススだらけでよくわからんが、人型をしている。
「あいててて……ったくなんなのだ。もう」
「ケンジ! あれが魔王よ!」
「まじか、生きてんじゃん」
アンヌの叫び声に気付いた魔王はこちらに向かってくる。
「おまえらか? オレの城を焼いたのは」
人の形……にしてはデカイ。
俺の倍ぐらいはありそうな身長。
そして脇の辺りからもう2本腕が生えていて、まるで蜘蛛のようだ。
そいつは4本の腕でぱんぱんとススを払うと、明らかに殺意のある顔で睨んできた。
「切り裂いてやる!」
「ケンジ、戦うわよ!」
……キモいんすけど。
魔王ってゆーより怪物じゃねーか。
これなら抵抗なくやれるかも。
どうやってやっつけよう。
そう考えていると、アンヌが怪物に向かって飛び出し、剣を振るう。
しかし、すかさず防御姿勢をとる怪物の腕に剣撃は弾かれてしまい、態勢を崩すアンヌ。
「うーわ、硬そう」
皮膚というのか外殻というのか、何で覆われているのか判らんが、普通の攻撃は効かないタイプっぽい。
怪物は下の手でアンヌを掴む。
「きゃっ!」
あちゃー、厄介だな。
これじゃあ下手に魔法を放つとアンヌまで巻き添えにしてしまうじゃねーか。
まずはアンヌを救い出し、それから怪物を仕留めるか。
てか、なんだろう。
この冷静さは。
普通に考えてこんな状況、いつもの俺なら焦って動けなかったりするだろうに。
夢だからか、それとも仙人という職業のおかげなのか。
マインドフルネスとかで精神が研ぎ澄まされてそう。
とにかく。
アンヌが握りつぶされちまう。
俺の属性にあった、空間魔法を使ってみるか。
アンヌのいる空間だけを別の場所に転移させることができたら最高だ。
よし、イメージして……
「……転移!」
すると、ブシュッという音と共に、アンヌが捕まっていた空間が消えた。
成功だ。
「グアア!!」
そう、ちなみに今のブシュ音は、怪物の腕が千切れた音。
空間ごと切り取るということは、身体も切断されてしまうということなんだな。
これは危ない。
少し大きめに指定しといて良かった。
さて、うまくいってれば、アンヌは少し離れた場所へ避難させられているはずだ。
俺はこの怪物を始末してしまおう。
ファイアボールだと自分まで巻き込んでしまいそうだから、素直に接近して殴るか。
木の杖を握りしめ、腕を切られて呻いている怪物に歩み寄る。
「き、きさまは何者だ……!」
「とりあえず魔王をやっつけるために呼ばれた勇者だそうだ」
「なんだと……くそっ、魔王様の復活はもうすぐだというのに……!」
「復活? あんたが魔王じゃねーの?」
「クク……我は四天王のうちの一人にすぎぬ。魔王様が復活すればこの世界なぞ……」
「まじか、四人いるのな。で、魔王の復活を止めればいいと」
「な、なぜわかった……!?」
ペラペラ喋ってくれる系の中ボスかよ。
だが、2時間以内にってのはもう無理だな。
次の勇者さんに任せて俺はお役御免ってとこか。
「ま、あんただけでも片付けとくか」
そして木の杖で怪物を殴ってみる。
すると破裂するように引き裂かれ、緑の血しぶきが辺りに飛び散った。
俺つええ。
「……ケンジ!」
そこへアンヌが駆け寄ってきて、俺に抱きついた。
「よう、無事だったか」
「ケンジ! あ……ありがと。帰ったらちゃんとお礼するわ」
「じゃあキッスでもしてもらおうかの」
顎クイっする俺。
「え……えと……あたし……なんかでいいの……?」
「冗談じゃよ、君が無事で何よりじゃ」
なんか喋り方まで仙人ぽくなっちまう。
「だが、さっきの奴は魔王じゃなかったぞ。四天王らしい」
「そんな! じゃあ魔王は一体どこにいるの!?」
「なんか封印されてて、もうすぐ復活するってさ」
「嘘でしょ!? ……じゃあケンジも復活を阻止するまで付き合ってくれるわよね?」
「でも召喚タイムリミットは?」
「それなら――」
その瞬間、俺の身体が発光しだした。
みるみるうちに薄く透けていく手足。
「明日も! 明日も来てよね!」
「へ?」
「同じ時間にゲートは開くわ!」
「ゲート?」
「5回までは行き来できるはずよ……!」
そして目の前が真っ白になり、俺は気を失った――
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