2,ゴキゲンだな、相棒
「お待ちしておりました! さあさあこちらへ!」
目覚めた俺の前には、図書室ではない空間が広がっていた。
中世の貴族の様な食卓。
並べられた美味しそうなご馳走。
「ど、どうなってるんすか? ここはいったい……」
「勇者様の歓迎パーティですよ! どうぞ召し上がれ!」
おそらく先程の本から聞こえた声の主であろう爺さんが、俺を豪華な椅子へと座らせる。
「なんちゅー夢だ……食っていいんすか?」
「もちろんですぞ! ただ急いでくださいね」
どうやら俺は図書室で寝てしまい、夢を見ているらしい。
仕方ない、春だし。
どうせ夢なら好き放題しとこう。
「いただきまーす」
あーん、とお肉を頬張る俺。
これが美味い。
高級霜降り。
最高の柔らかさ。
口の中で弾ける肉汁。
「美味いっすね」
「それは良かったです! ではでは次行きましょう!」
「え?」
まだ一口しか食べてないんすけど。
爺さんに手を引かれ、席を移動させられる俺。
「次はこちらの部屋です! ほれ、可愛い子ちゃんたちを用意しました」
「え……」
隣の部屋へ移動すると、そこには金髪のお姉さんや猫耳メイドさんたちが待っていた。
「俺の好み判ってますね! って夢だから当たり前か」
「勇者様ぁ、あたしたちに何して欲しいですかぁ?」
すりすりと寄ってくる彼女たち。
夢だとはいえ人見知りなもんだから、今俺は耳が真っ赤になっていることだろう。
「オサワリも有りすか?」
「お望みのままに!」
「じゃ、じゃあ、耳かきとか……」
「はぁい! 任せてください勇者様ぁ!」
猫耳メイドさんがカーペットに正座し、ポンポンと膝を叩いて合図する。
いやはや、最高な夢だなこれは。
「ではお言葉に甘えて」
横になり、頭を猫耳メイドの膝に乗っける。
「可愛い勇者様ですぅ、よしよし」
ヤバいね、頭を撫でられるのなんて何年ぶりだろう。
このまま夢から覚めないで。
と、その時、またお爺さんが俺の手を引っ張ってくる。
「はい終了! 歓迎会終わり! 次行きましょう!」
「え、えー!!」
「すみませんが、時間が惜しいんですよ!」
猫耳メイドから引き離され、次の部屋へと連れて行かれる俺。
「さあ! 早速ここでは職業の適性を診断してもらいます!」
「職業?」
「ええ! では裸になって!」
「なんすかこの注文多い宮沢賢治的なノリは」
体にバターでも塗らされるんすかね。
「職業が決まったら専用の服装しか装備できなくなりますから!」
「あ、そうゆうことっすね」
「早く!」
「は、はい……」
まあ夢だし、と言われるがままに服を脱ぐと、占い師みたいな婆さんが水晶玉を掲げ何か唱えだした。
しかし、職業とか、まるでRPGだな。
ちょっと楽しみ。
「出た! あんたの職業は……」
なんだろ、やっぱ勇者かな。
剣士とか騎士とかも格好いいな。
魔法も使ってみたいけど。
わくわく。
「【仙人】じゃ!!」
ん?
「仙人じゃ! ほれ防具!」
そう言って婆さんから手渡される服。
服?
「あの、ただの布切れ一枚なんすけど……」
「仙人じゃからの!」
「や、これはなんというか、ひもじい」
「ほれ武器!」
手渡されたのは案の定、木の杖。
なんかクネクネした感じのやつ。
「ネタですよね?」
「なんじゃ、気に入らんのか」
「や、だって俺まだ17歳ですし……」
「わかったじゃあ、これもプレゼントじゃ!」
そう言って手渡される白いモフモフ。
「これはもしかして、筋斗雲!?」
「顎に付けるやつじゃ」
「付け髭っすね」
「うむ、よく似合っておりますぞ」
「……」
なんてふざけた夢だ!
付け髭を床に叩きつける俺。
「仙人はレア職じゃからよくは知らんのじゃが、確か魔力がとてつもなく高いことと【瞑想】というスキルが使えるはずじゃ」
「瞑想?」
「効果は知らん」
「おい」
「はい次行きましょう」
またしてもお爺さん登場。
展開早いな、何をそんなに急いでるんだ。
そう思いながら次の部屋への扉をくぐる。
「ここでは属性を調べますぞ!」
「あ、魔法とか?」
お爺さんに誘導されるがまま、本の上に手を重ねる。
すると突然本は赤く輝きだし、みるみるうちに炎が上がった。
「火ですな!」
「なんかよくある属性っすね。強いんすか?」
「四大元素のなかでは最も攻撃力がありますぞ」
さらに炎があちこちに瞬間移動しだした。
「おお、空間魔法の適性もあるようじゃぞ」
「やたっ」
なんか凄そう。
喜ぶ仙人姿の俺。
「で、もっかい耳掻きの部屋戻ってオーケーすか?」
「いえ、もうそんな時間はありませんぞ! あと1時間です!」
「1時間? なんの話?」
「次で最後ですぞ!」
爺さんに腕を引っ張られ、次の部屋へと入る。
そこにはどうやら出口だと思われる立派な玄関があり、手前に剣士のような身なりをした女性が両手を腰に当てて待っていた。
「待ってたわよ。勇者」
俺と同い年ぐらいだろうか。
赤髪ロングをツインテールにまとめた可憐な美少女。
「この子はわしの孫にして、この国最強の魔剣士です。剣にでも盾にでも好きに使ってくだされ」
「はあ……」
てってれー。
いきなり仲間が出来た。
「さあ行くわよ!」
「そうじゃな、時間が惜しい! さくっと頼んます!」
「ちょっと待って、さっきから時間時間って、なんかあるんすか?」
「あれ? 言っておりませんでしたかの?」
「異世界召喚は2時間しか保たないのよ?」
「はあ」
「だから、2時間で魔王を倒さなきゃいかんのです」
「はあ!?」
こうして二人に無理やり手を引かれ、外へポイッと放り出される俺。
玄関の外は野原だった。
地平線が見えるまで広がる野原。
振り向くと先程の建物。
周りにはレンガ調の家々。
アルプスの少女を彷彿させるような町並み。
夢にしてはリアルすぎる日差しや風を感じ、俺は身震いを覚えた。
憧れのファンタジー世界だ。
仙人だけど。
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