異世界勇者は現世の魔王
すずろ
1,はじまり
放課後の図書室。
ぼっちの俺が唯一落ち着ける場所だ。
カウンターの図書委員が無表情でぺこりと会釈する。
ボブカットで小柄な女子。
名札には【日高】とあるのを知ってるぐらいで、特に会話をしたこともなく、お互い我関せずといった関係だ。
ここにはこの無口な図書委員が一人いるだけで、基本的に誰も来ない。
俺が寝ていようがカクヨムを読んでいようが、誰にも邪魔されない素敵ルーム。
一番奥のいつもの席に腰掛け、ほっと一息つく。
窓から見える桜並木と、運動部のかけ声なんかを耳に入れながら、ボケーッと過ごす放課後。
高校三年になったからといって、いつもと変わらない日常。
将来なにをしたいわけでもない。
人付き合いも面倒くさい。
このまま時が止まればいいのに。
なんて考える、いたって変わらないいつもの放課後だ。
いや、いつもの放課後のはずだった。
「ぐっ……」
突然キィーンという音が、俺の耳をつんざいた。
「助けてくだされ……」
図書室の本棚から聞こえてくる声。
それは運動部員の声でもなく、おそらく図書委員の声でもなく、しゃがれたお爺さんの様な声。
「どうかこちらへ……」
その声のする方へ向かうと、一冊の本がうっすらと光り輝いている。
そっと手に取ってみた。
「おお……勇者様……我々をお救いくださ……」
「なんだこれ?」
どういう仕掛けで声がしているのか不思議に思い、本を開いてみる。
ペラペラとめくるも、白紙ばかり。
そして最後のページには、怪しい魔法陣のようなものが描かれていた。
なんだこのオカルトは……そう思って本を閉じようとした瞬間、魔法陣から刺すような光が八方へ広がり、辺りが異常な明るさに包まれる。
「まぶしっ……」
持っていた本を投げ捨てるように落とす。
しかし俺の体はどんどん本へと吸い込まれていったのだ。
「た、たすけて……!」
図書委員がいるカウンターのほうに向かって叫ぶも、誰も来てくれない。
そうこうしているうちに、俺の体は完全に魔法陣へと吸い込まれ、意識を失った――
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