砂塵の大地?

「まさかアフリカにまで行くことになるとは……」

「君インドア派だったもんねぇ」


 アフリカへ向かう飛行機の中に、私とヴォネガット教授はいた。もはやここまでたびに出るとなると旅支度も慣れたものである。ロシアから戻り3日後にはすでにアフリカへ向けて飛んでいた。


「トーキング・ドラムについて少しだけ予習してきたんだがね、この楽器は音の高低が非常に重要らしくてね」

「音の高低?音階ってことですか?」

「そういうことかな?まぁ、楽器に関しては門外漢だから詳しくは知らないんだけど」

「音楽が関係しているのかなぁ……」

「どちらにせよ、行ってみないと分からない。今はこの機内食を存分に楽しもうじゃないか」


 その後、機内で最近の映画を垂れ流しながら爆睡したり、外の風景を見ていたら爆睡したりして、ようやくアフリカにたどり着いた。


 空港のエントランスで長い間座っていて固まった身体をウリウリと伸ばしていたところ、どこからから太鼓の音色が響いてきた。


「早いな、もう着いているのか」

 ヴォネガット教授がそそくさと荷物を持って歩いていってしまうのでそれについていく。

「こっちかな?」

 空港内を流れる太鼓の音色を頼りに周辺を歩き回る。辺りを見回してみるが太鼓らしきものを持っている人物がいない。ベンチに座ってスマホを見たり、トランクケースにもたれかかって気持ちよく微睡んでいる人、そこの売店らしき場所で買ってきたサンドイッチを美味しそうに食べている人。様々な人間が思うがままの時間を過ごしている。


「もう少しあっちの方か……」

「このままこっちへ進むと空港の入り口近くですね」

「てか、太鼓の音大きいね?」

「確かに……」

 最初に聞こえたエントランスからはかなり離れた場所に来た。そしてそれにともなって身体を震わせるような音量の太鼓の音色が聞こえてくる。

 そんなことを話しているうちに空港の入り口にたどり着いた。壁際に数人の人溜まりが出来ていて、その中心にはスピーカーと聴衆に囲まれた一人のTシャツ姿の男性が太鼓らしきものを叩いていた。


「あれがトーキング・ドラムですか?」

「多分ね。話しかけに行こうか、あれが目的の彼だ」


 ヴォネガット教授についていき、聴衆に混ざる。太鼓の演奏は一本調子のように聞こえてるが繊細な音の高低がある。音の波は心地よく空気を震わせ、私達を包み込んでいった。


「どうもありがとう」

 男性は落ち着いた声で感謝の言葉を述べてから、ヴォネガット教授を見てこちらへ手招きした。


「お知り合いなんです?」

「ん、出国前にトーキング・ドラムに詳しい人を紹介してもらってね。彼がその人なんだよ。出国前にビデオ通話でいくらか話していたのさ」

「なるほど」


 誘われるがままに彼のもとへ歩いていくと彼は敬々しく頭を下げ自らの名を告げた。


「ようこそ、伝承の地アフリカへ。私はイディ、失われつつあるトーキング・ドラムにて伝承を語る者です。以後、お見知りおきを」

「はじめまして、御陵由加、です」

「やぁ、イディ。相も変わらず生真面目だね君は。わざわざ空港にまで来てくれるなんて」

「客を迎えるのは当然のことです。それがトーキング・ドラムについての探求の徒であるのなら尚更の話」


 深く、落ち着いた声音は聞くものに一種の安心感を与えてくれる。彼の声音はそういった類のものだった。


「さて、ここで話すのも何ですから、場所を変えましょうか。車を用意しているので街の方へ行きましょうか」

「うん、お願いするよ」

「街の方ってもしかして」

「えぇ、エジプトの首都、カイロに向かいます」

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