3/ "探偵"への依頼 1
住宅街の代わり映えしない煉瓦壁を、警察車両のフロントライトが白く照らしている。上層都市のネオンが点き始める夕暮れ前、そこには幾人かの警察官が現場を検分しており、シャノの前にはブロディが立っていた。
「シャーノー、無鉄砲するなって何度も俺ァ言ったよなぁ!」
「すみません警部、ホント、でも今回は怪我もないし」
「赤毛に守って貰っただけだろうが!」
ジャックが事件について口を滑らせたため、シャノはブロディのお冠を受けていた。シャノの無謀な振る舞いをブロディが叱るのは毎度のことで、こういう時はただひたすらに謝る他になかった。
何時もと同じ小言を繰り返した後、ブロディは口を噤み、それから肩を窄める若い知人を見た。
「シャノ」
「はい」
「御前、またやるだろ」
シャノはどう言ったものかと悩み、それから答えた。
「ええと……またやると思います」
深い溜息の音。
「また怒るからな。覚悟しておけ」
「はい、ありがとうございます……!」
シャノは顔を明るくした。ブロディは頭を掻くと、少し離れて見守っていたグリフィンたちの方へと近付いた。
「死因は打撲じゃないそうだ。毒物か病気の類の内因的なモンだろうとよ」
「はーっ、俺のせいじゃなかったか、良かったーっ」
ジャックは心底安堵した。殺人鬼としてはこんなしようもないトラブルで捕まるのはまっぴらだという所だ。
「病気か毒……じゃああの獣みたいな声は」
「苦しんだ末の行動かも知れないな」
苦悶の表情で目を見開いた死体を警察官たちが囲んでいる。身元は不明。現在、周辺のアパルトメントに聞き込みをかけているという。
「御前らの話を聞くに、この死人に襲われた肝心の被害者は逃げたんだってな。ったく面倒な……」
シャノたちが死んだ男に気を取られている隙に、追われ泣き喚いていた若い男は忽然と姿を消していた。ただの通りすがりだったのか、死んだ男と関係があったのかも分からないままだ。
「ジャックが追いかけてくれないから」
「俺にばっかり肉体労働を任せるなよ」
面倒くさそうな顔をするジャックに、グリフィンは冷たい仮面を向けた。
「肉体労働をしない貴様に価値があるのか?」
「あーりますー。御前、今晩見てろよ」
ジャックは手に持った買い物袋を揺らした。ここの所のジャックはグリフィンに『美味い』と言わせることを目標にしている。
「それと、関係あるかは解らないけど、黒い服の女性を見たんです」
シャノは思い出す。ジャックが襲いかかる男を蹴り倒した時、路地の遠くに一人の女を見たのだ。流行から外れた、厚手のロングスカートを纏った、黒髪、黒服の女。女はやがて騒ぎを避けるように姿を消した。ただの近隣住民だったのかも知れない。けれどシャノはその女のことが気にかかっていた。
ジャックもそういえばと記憶を手繰る。
「なんか居たな、あっちの方に。何ていうかな、時代遅れな服の女」
「時代遅れな黒い服の女ねえ。分かった、それも記録しておく。御前らもう帰って良いぞ」
ブロディからの解放の言葉に、三人は忙しく働く警官たちの間を抜け、巡回バス停留所に向かった。時間は随分と経っていた。大通りに戻ると、暖かい家路につくため幾人かの労働者たちが巡回バスの停留所に並んでいた。彼らは昼間は商業施設の多いシックスローズ地区へ働きに出、夕方になれば寂れた住宅地区へと戻るのだ。
「あ、結構並んでるね。これは混むかな」
「あー面倒くさかった。事情聴取を受けるほど心臓に悪いことはないぜ、早く帰りたい」
「フン、貴様ならいつか事情聴取程度では済まなくなるだろうよ」
三人がが気を抜き始めた時――歩道を歩く三人の後ろから、住宅街には似合わぬ真っ黒な車が動いた。S63ARK4Tカリックス社製輸入車の最新モデル。夕方の光を怪しく反射した高級車は不思議そうな三人の横に着くと、
窓の向こうから見慣れぬ老人の姿が現れた。長い髭。顔には大きな黒眼鏡。高級に艶めく杖を手に持った老人は大きく口を歪め、歯を見せた。
「――おいで、シャノン・ハイド。ブラックドッグのお呼びだ」
◆ ◆ ◆
レストランのぼやけた明かりが大通りに浮かび始める。仕事を終えた人々が、仲間同士で騒ぎながら店の中に消えていく。
雑多な通りには不釣り合いな黒塗りの高級車がイタリアンレストランの裏に停まっていた。通り過ぎる人々がそれに目を向けることは無い。わざわざ闇の蠢く井戸を覗き込むほど、彼らは愚かではないからだ。
風を纏う黒犬の看板の下、地下の石造りの壁は冷ややかに、階段を下る来訪者を迎える。それは訪れる者を飲み込むように、それは踏み入る者を舐め尽くすように。
しかし、辿り着いた酒場ブラックドッグは一転、賑やかな雰囲気に包まれていた。
オレンジ色の白熱球が明るく灯された酒場には、仕事帰りの連中が早々に酔いどれ、騒いでいる。
「ったく得意先が発注するトコ変えやがってよぉ、ウチの設備が古いってテメーらが金払い渋るからだろっつーの、さんざ儲けてるだろうによぉ」「ワハハ、ライルのヤツついにカミさんに浮気がバレたって!」「螺子ってヤツはどーしてバッテンとまっすぐのがあるんだ? 面倒くせえよな」「孫がデキるんだよ、気分が良いから今晩はオレの奢りだぜ!」
騒ぐ酔っ払いたちの間を抜けながら、黒眼鏡の老人は機嫌良く口を開く。
「ハッハッハ、酒場ってのは良い、浅慮かつ軽薄で堕落的だ。こうやって御機嫌な連中を見ているとこっちも気分が良くなる」
老人の後を三人は黙ってついてゆく。客たちは誰一人、一行のことを気にかけず、グラスを煽る。
「あの爺さん、誰だよ」
周囲の喧騒に紛れ、ジャックが小声で話しかける。
「知らない。でも多分……『豚飼い』のエドガーだと思う。ここの情報屋のお気に入りの一人」
「ヤバい奴か?」
「かなりヤバい」
「フーン」
黒眼鏡の老人はフロア最奥の扉を開くと、暗い廊下の更に先へと進んでいき、やがて突き当りに存在する重厚なオーク材の扉の前で立ち止まった。
「さてさて、覚悟は良いかね、若者諸君? ――なかったとすれば、ご愁傷様だ」
扉が開く。――電球の光と共に現れたのは、上品な美しさを湛える部屋だった。壁と床は飴色に艶めく木材が使われており、床の上には植物模様が鮮やかな手織り絨毯が広がっている。天井の照明器具は優雅に六つの腕を伸ばし、その先にオレンジ色の電球の蕾を実らせていた。
手作業によって齎された滑らかな曲線の木製テーブルに、優雅に腰をかけた黒い髪の優男が微笑んだ。
「ようこそ、愚かなシャノン。そしてそのお友達」
薄笑いを浮かべる男は、赤いレザーのジャケットに、首には水玉のスカーフを巻いている。
ウル・コネリー。酒場ブラックドッグの店主、そして情報屋『
「そうそう、シャノンは初めてだから紹介しておこう。彼は『猛牛』ギブ・バイロン。あっちが『豚飼い』エドガー・ベーコンだ」
脇に控える義眼と頬傷の大男と、扉の前に立つ黒眼鏡の老人。ブラックドッグの腹心とも噂される二人の男。
「まあまあ、三人共、取り敢えず座ってくれ」
勧められるままに、三人は金糸模様のビロードファブリックとマホガニー材のソファへ腰をかける。上質なクッションは柔らかく彼らを迎え入れた。
「コネリー、何の用だ?」
シャノは先に切り出した。コネリーは楽しげに不揃いな三人を眺めた。三者三様に、今の状況に疑問や警戒心を抱いている。客のそういった様子を堪能するのもコネリーの楽しみの一つだ。
「ヒヒ、良いねえ、新鮮じゃあないか。アンタがオレを頼るのはしょっちゅうだが、オレからアンタを呼び出すのは初めてだ。存分に緊張してくれよ」
シャノはコネリーから視線を逸らさない。この男の前で隙を見せてはならない。一度、弱さを見せればたちまち食い尽くされるだけだ。それが、『
「どうだい? 話の前に何か飲むかい。酒は良いよ、緊張をほぐしてくれる。丁度良いのが入ってるンだ。アンタはワインが好きだろう? アンタはオレの前で酒の好みを口にしたことはないが、勿論このオレは知っている。何せそれが情報屋ってモンさ」
「コネリー。酒は要らない。話を」
「ツれないねぇ。まあ良い、じゃあ話をしよう」
顔の前で両指を合わせたコネリーから、すっと笑みが消えた。
「アンタたち、"患者"を見たんだろう?」
「患者……?」
「先ほどの、狂った男のことか」
グリフィンが呟いた。狂い叫び、死んだ男。ブロディによれば病か毒で死んだ男。たった数時間前の出来事だったがコネリーはもう嗅ぎつけたらしい。
「そうそう、その男だ。当然、オレはもう知ってる。でもその件そのもので用があるんじゃない、それがなくても最初からアンタたちを呼ぶつもりだった」
コネリーは息を吐くと、組んだ手を解き、卑屈な笑みを作った。
「
囁くように、コネリーは艶かしく口を開いた。
「知っているかい? あれは病だ。ある日
朗々と告げられる言葉、その最後を彼らは待つ。精巧な壁時計の振り子が長い息を吐くように揺れた。
「……シャノン。あれは人間の仕業じゃあない」
「何が言いたい、コネリー」
シャノの肌がざわついた。――この男は。この男の言おうとしていることは。
「――"怪異"」
その言葉に、銅色の仮面の上に目深に被った黒いフードが揺れた。
「何故貴様がそれを知っている」
グリフィンは低い声で問いかける。コネリーは人を不快にさせる引きつった笑い声をあげた。
「知っているとも! オレは
ピクリとシャノの眉が動いた。満足気にコネリーは続ける。
「アンタたち、六日前に廃工場地帯に行ったろう。その後から、”切り裂きジャック”は現れなくなった」
シャノは無言で先を促した。
「ヒヒ、詳しいだろう、オレは! そしてね、オレは今回も嗅ぎつけた。この事件がアンタらの追う"怪異"の仕業だってね」
側に控えていたバイロンが、一枚の写真を机の上からつまみ上げ、コネリーに手渡した。そこには冴えない男が映っている。
「二日前。うちの構成員が"怪異"に襲われた。当然、そいつは熱に苦しんだ挙句、狂って死んだ。大事な取引があったってのに! これじゃ悪いことも出来やしない。困りモノだろ?
コネリーは問いかけるように首を傾けた。
「シャノン。そして二人のお友達。この"怪異"を消し去るんだ」
情報屋の手元の写真が翻り、映された男の死に顔が三人へと向けられた。目を剥き出し、声を絞り出すような苦悶の形相。
「勿論、これは慈善だとか、アンタらへ恩を売るとかじゃない。ちゃんとした依頼だ。こちらも情報提供は惜しまないし、成功すれば報酬は払うよ。ヒヒ、オレからシャノン・ハイドに金を払う日が来るとはね!面白いじゃあないか」
コネリーはそう言って、情報を収めた厚みのある封筒を振った。
「さあ、どうする? 請けるか請けないかは、アンタたち次第だ」
「……わたしは」
シャノンは意思を尋ねるようにグリフィンとジャックを見た。
「俺はどっちでも良い。やることは変わんねえしな」
ジャックは興味なさげに答えた。グリフィンは、無言。それから、その仮面が重苦しく照明器具の光を反射した。
「その依頼、受けよう」
コネリーは口を大きく歪めて笑った。
「嬉しい返事だ。じゃあ、これがオレから提供できる"情報"だ」
差し出された封筒の中身は数枚の写真と、怪異の被害者の情報を纏めた書類だった。
死者は六名。いずれも下層住まいの男性で、死んだ日時はバラバラだった。その中には数時間前に死んだ男も含まれていた。
「ハ、これだけか」
つまらなそうにジャックが呟いた。
「ヒヒ、アンタには物足りなかったかな。悪いね、オレにも今はこれが全てだ。何か新しい情報を手に入れたら、オレの所に持ってきても良い。その時はオレの方にもアンタたちの手に入れた情報と照合できるモノが揃ってるかも知れないからね」
「話は終わりか? なら帰らせてもらうよ」
「ああ、良いとも。ギブかエドガーに家まで送らせようか」
「結構。あんな車がうちまで来たら目立つにも程があるよ」
「ヒヒ、そうかい」
立ち上がった三人に、思い出したようにコネリーは声をかけた。
「ああ、シャノン。ちょっと待ってくれ、渡すものがある。ギブ、あれを」
棚の一つに静かに近付くと、バイロンは一本のビンテージ・ワインを取り出した。シャノの手に重い硝子瓶の感触が渡された。
「オレからの前払い、いや前祝いだよ。楽しんでくれ、"探偵"さん」
「……どうも、お気遣いありがとう」
ワイン瓶を受け取り、三人は扉へと向かう。
「ねえ、キミ」
ドアハンドルに触れようとした時、黒眼鏡の老人――『豚飼い』ベーコンがグリフィンに声をかけた。
「何か……」
――グリフィンが応じようとした時。
「――――ッ」
ベーコンの艶めく杖が唸りを上げて振るわれた。グリフィンには避ける間もない。鋭い杖先が真っ直ぐにその無表情な仮面に伸び――。
――ピタリと、止まった。突き出されたワイン瓶の前で。
「どうしたジジイ、足でも捻ったか?」
グリフィンの仮面の前に、咄嗟にシャノから奪った瓶を構え、ジャックは冷めた目でベーコンを見た。ベーコンは状況を見ると剣呑な雰囲気を崩し、杖を下ろして豪快に笑った。
「いやいや、私は年甲斐がなくてね! はしゃいでしまったのさ。その仮面の下が気になってね! 仮面に手袋に
「手癖が悪いよ、エドガー」
「はっはっは、すまんね、ウル」
苦笑するコネリーにベーコンを咎める様子はない。
ジャックも何事もなかったかのように、ベーコンから目を離した。
「帰るぞー」
「……あ、うん」
「…………」
シャノに瓶を返すと、ジャックはオーク材の扉を開けた。廊下の暗闇が三人の前に広がる。三人の背後で扉が閉まる寸前――コネリーはその背中へと暗い笑みを浮かべた。
「ようこそシャノン、オレたちの世界へ」
◆ ◆ ◆
――リカは良い女だった。お世辞以外で美しいと言われるタイプではなかったが、俺にとっては世界一の美人だった。よく気がついて優しくて、お互いくだらない冗談で笑う。だから俺が仕事を辞めた時も、彼女は気丈に笑っていた。
俺が仕事を辞めたのは簡単な話で、それが陳腐な仕事だったからだ。俺は彫版師だった。本に印刷するため、挿絵の刷版を彫る仕事。文字にとって挿絵というものは重要だ。描かれた絵は読者の感受性を刺激し、作り手の持つイメージを文字と共により確かに伝えることができる。それは小説だろうと、雑誌だろうと変わらない。俺は自分の技術が為せることに誇りを持っていた。けれど、他の連中はそんなことは気にかけなかった。
社長は儲けを気にして、無理なスケジュールで大量の受注をした。そうなれば当然、一枚の版にかける時間は減り、質は落ちる。どうせ一ヶ月経てば資源ゴミとして回収される下らない雑誌に過ぎないのだから、と社長は言ったが、俺は自分の手がけた版ががたついた線で印刷される度に、涙が出るほどに悔しかった。
社長の言うことにも、一理ある。俺の務める印刷工場は小さな所だった。何か特筆すべきことがなければ、似たような他の工場と差がつけられない。上層では開発された新技術でとても美しい印刷を安価で作ることが出来るというが、そんなものはあと20年もしなければ下層にまで届かない。だから、量を選んだ社長の判断も手段の一つではあったのだろう。
けれど、俺は描かれた絵の意味を、その美しさを伝えたかった。だからその印刷工場を辞めた。
俺は理想を叶えることにした。満足のいく時間をかけて、満足のいく美しい仕事をする。人々に美しい書物を届ける。そんな工場を作ると奮起した。俺には自信があった、自分の技術にも、自分の美しいものを見る目にも。この熱意を伝えればきっと理解者がいるはずだと。
――結局のところ、それは叶わなかった。俺に残ったのはクタクタになった体と、大きな借金だけだった。
リカは笑わなくなった。
だから、それは俺の責任だった。俺は夢を諦めた。けれど俺にはリカの笑顔を取り戻す義務があった。だから、だから。だから――
「起きな、間抜け」
頭を蹴られる衝撃で、男は、ロイス・キールは目を覚ました。
「はあっ、ああ、アンタか」
「約束の時間までお休みとは、良い気なものだな」
ぐしゃぐしゃの金髪を振り、ロイスは自分を見下ろす相手を見た。緑色の光を放つ不思議な小型機械がロイスを照らす。電気でも炎でもない、舞い散るような光。奇妙な相手だった。膝丈までのボロボロの黒衣に、黒いジャケット。頭部には謎めいた銀色の仮面をつけた小柄な人間。分かるのはその声から相手が女だということだけだった。
ここはイーストエリアにある倉庫街だ。ロイスは
「それで、品物は」
「違うんだ、聞いてくれ!」
仮面に空いた黒い穴から見下ろす女に、ロイスは慌てて自分に起こったことを捲し立てた。
「品は確かに手に入れた、でもあいつが、ラカムが突然熱を出して、それで何でか襲い掛かってきて、俺は逃げ出して……」
「つまり、持ち合わせていないということだな」
女は無表情な仮面を揺らし、鼻を鳴らした。死体を見定める死肉漁りの鳥のように。
「多分、あいつが死んだことで俺たちの家には警察が入ってる。だから、品物もきっと……」
「警察に、か。厄介な」
「頼む、許してくれ!」
ロイスは女の黒衣に縋り付くが、女は無慈悲に振り払った。
「品物がないならどうしようもない。御前に金は払えん」
「あ、アンタら、凄いんだろう、
「貧相な下層とはいえ、公的機関は公的機関だ。そう易々と押収品を盗み出せるものか」
すげない仮面の女の答えに、ロイスは崩れ落ちた。
「そんな、じゃあ、俺はどうすれば」
「自らでどうにかするんだな。貴様の相棒のように、死にたくなければ」
女はロイスの手に薄っすらと浮かぶ斑模様を見た。"怪異"に襲われた証。今は僅かだが、時間が経てば発症する可能性が高かった。そうでなくても、次にまた"怪異"に遭遇すれば確実に命はないだろう。
「四日後の同刻。またここで待っている。その時までに用意が出来なければ、御前との契約は破棄だ」
震えるロイスを後に、女は倉庫を後にした。空は曇りがかっていて、月の光も届かない。見えるのは上層に煌めくネオンの光だけだった。
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