act.005 Missing in action
◇
負傷した仲間達と共に、L777は基地へと戻った。
未開拓エリアに関してはオペレーターのO202から上へと報告があがっている。彼女たちの役目に報告も含まれている。
することがない以上、とりあえずは自室に戻るぐらいしかすることがない。
よく分からないけれど、体は疲労からなのか倦怠感を感じる。今すぐにでもベッドに飛び込みたい気分だ。煎餅のような布団でもこの際は文句を言っていられない。
「おっす、お疲れ」
同期かと思い、適当に「どーも」と返事を返す。
だが、この声はもっと別の場所で聞いた気がする。
バッと顔を上げると、廊下の開いた窓の枠に腰をかけた若大将だった。
L777は慌てて頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。
「あー、いいのいいの。俺堅いの嫌いだから、タメでいいぐらい」
歳もあんま変わんないしね、と言われ、相手の顔をまじまじと見つめてみるが、年齢は不詳のままだ。
「どうだった?ゼロの奴」
「……凄かったです。同じ人間なんですよね、あの人」
「そうそう。体は一切いじくってないから言葉通り生身だよ」
脳内にチップを入れていることは、いじくっていることには入らない。今の人間なら誰でもやっている処置だからだ。
「そういえば、ゼロさん、左手に何か入れてませんか?」
若大将は「どうして?」と笑顔で首をかしげる。
年齢だけでなく、何を考えているのかもこの男は不詳のまま。
「あの人が敵戦車に触れると動かなくなったんで、ちょっと気になったというか」
男は、ふむふむと頷いた。
「よく気づいたね」と大将は笑う。純粋な褒め言葉なのか、試されているのか、相変わらず掴めない。
「どうなんですか」
焦れったくなってもう一度聞いた。
「流石に俺があいつのプライベート喋るわけにはいかないんだよねぇ」
自分で聞いてみな、と大将は笑ったまま答えた。
これ以上話しても何も答えは得られない。そう思ったL777は「失礼します」と頭を下げて、再び歩き出した。
「あいつを頼むぜ、ラッキーセブン」
遠ざかっていく仲間の背中に、男は小さく呟いた。
◇
「未開拓エリアに行ったんだって?」
基地の食堂にて、間食を貪っていたゼロの正面の席が埋まった。
「しかも、新しい相棒と」
その男は片手に洋風の甘味を持っていた。それをゼロの前に置く。眠たげな目が少し大きくなるや否や、武器を使い慣らす手がその甘味を相手の手からひったくった。
男は愉快そうに笑いながら足を組んだ。
「で、何か用なの?SF-
「別にィ。未開拓エリアの話聞かしてもおっかなぁと思っただけ」
「えー、別に何もないけど」
ピンはゼロがひったくった甘味近くのテーブルを指先で叩いた。
買収された、と気づくのはいつもこのタイミングだ。
好物の甘みを舌先で楽しみつつ、ゼロは今日あったことを思い出す。
「いや、マジでなんもないわ。何もなかったことが結果だわ」
「は?それを言えや」
「ナニもアリマセンデシタ」
ふーん、とピンはつまらなそうに頬杖をついた。
「敵は?」
「
「減りすぎじゃね?」
「大移動じゃない?知らんけど」
「気楽な奴だな、お前」
「だって、考えても分かんねーもん。前から作戦立案はそっちの仕事でしょ」
「頭ばっか使うの飽きたわ」
乱射してェ、と天井を仰ぐ目の前の男に、ゼロは湿気た目を向けた。
この男と組んでいた頃、何度危ない目に遭ったことか。
「気楽で羨ましい限りだわ」
軽口を叩いて、ゼロはピンを軽く睨む。
戦地に出向く故に動きやすさを重視した兵服とは違い、室内作業を主としているピンは普段礼服とも違う専用の制服を着ている。彼のその姿も随分と様になって来た。
そんなピンの隣をひと席開けて、オペレーター専用の制服を着た女性がスカートを手で払って席に座った。
ピンは食堂の時計に目を向けてから、彼女が持ってきたお盆の上を改めてみた。
「3時のおやつにしてはボリューミーじゃね?デブ活か?」
「ミンチにされたいの?アンタ」
彼女はオペレーター達に配られた警棒をちらりと覗かせた。兵士達の特殊銃と同じく、充電式の特殊警棒だ。打撃だけではなく斬撃機能も備わっている。
ピンは鼻で笑って一蹴した。それを更に鼻で笑って、O202は右手に箸を持った。
「何かあった?」
2人のやりとりが終わったところでゼロが尋ねる。思い切り肉に食らいついた彼女は咀嚼しながらゼロの方を見た。
口の中の物を空にしてから、箸でゼロを指す。
「言ったじゃないですか、エリアが1つ奪われたって」
「聞いたけどさ、でもそれで忙しくすんのって俺らじゃね?なんで情報室が?」
O202は驚いたように目を丸くした。そんな彼女の方にピンも目を向ける。
「ゼロさんが頭動かしてるなんて珍しいですね」
「え、そんなに?まぁいいや。で、どうなの?」
「上から内密にって言われてるんですけど、」
彼女は箸を動かす。ぱちぱち、と両の箸がぶつかって音を鳴らす。
「今日の戦闘の裏で、実はエリアが奪われただけじゃなくって、他にも小隊の行方が分からなくなってるんです」
「
「辛うじて生きてる。この後居場所の詳細と、彼らの動向と、行方不明に至った原因と、裏切りでないかの判定をしなくちゃいけないんです」
昼も食べてないのにこの調子じゃ夜も食べられない、と彼女は思いきり肉にかぶりついた。
ゼロはスプーンを口に入れたまま、裏切りという言葉を口内で呟いた。
「まぁ、裏切りにしろ違うにしろ、救援でお前が派遣されんじゃね?」
ご苦労なことで、とピンが呆気らかんと言う。
「んー」と、ゼロは曖昧に頷いて深くは考えなかった。
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