9999階は最後の世階

9999階は、階層世界の頂上に位置している。ここにあるのは、巨大な制御室と、全ての世階を映し出す無数のモニター。箱船エレベーターでここまで旅してきた私といえど、全ての階を回ったわけではない。画面に映る多種多様な世階の姿は、非常に興味深いものであった。


「どうですか?世階の様子は十分に記録できましたか、旅人様?」

「ありがとうございます、女神様。管理室を見せていただきたいという、私の勝手な要望まで、聞いてくださるとは」

「いいのですよ、旅人様。久しぶりに人間と話すことができて、私としても、嬉しい限りなのですから」

私の目の前に現れる少女の姿のホログラム。彼女こそが、全世階の管理を行う巨大なコンピューターシステムのナビゲーションプログラム。階層世界を作った女神として、語り継がれている存在である。


「旅人様、あなたはこれまでいくつもの世界を巡ってきたそうですね。あなたの目に映る世界の姿は、どうでしたか?」

「私はただのしがない旅人。女神様の世界に何か意見を述べる資格などありません。ただ、あなたに一言だけ伝えたいと思います。いつも私たちのことを見守っていてくれて、ありがとうございます、女神様。あなたに会えて良かった」

「私は、女神様などと名乗るのもおこがましい、無力なシステムの一部ですよ。今となっては、階層世界の管理も十分にできていませんし、制御不能になって、歪んだ形になっていったり、滅びて行く世階を見ていることしかできません。それでも、この世界の行く末を最後まで見守っていこうと思います。旅人様、私もあなたに会えて良かった」

「私はそろそろこの世階を去ろうと思います。まだ、巡りきれていない階もたくさんありますし、旅人としてはまだまだ不満足なのです」

「そうですか、せっかくお会いできたのに、少し寂しいです……」

悲しそうに笑う女神様に、私は何も返す言葉が無かった。


「旅人様、そういえば、あなたの願いを聞いていませんでしたね。できることなら、私に叶えさせてください。もっとも、私にできることは限られていますが……」

「そうですね……私の願いは……」


ああ、遂にこの時が来たのだ。私が心に秘めてきた、一つの想いを打ち明ける日が。願いを語るうち、今までの旅の記憶が蘇り、私は思わず涙を流していた。


「旅人様、あなたの願いを叶えましょう」

私の願いを聞いた女神様は、静かに頷いた。


こうして、私はたどり着いた。旅の一つの終着点へと。そして、これから始まるのだ。また、新しい旅が。


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