6085階は空の世階

魔力で浮かぶ、無数の浮遊大陸が存在するこの世階では、雲の海に街が点在し、そこを空飛ぶ船、飛翔艦が行き来している。


階層の南側には、古代文明時代に作られたという浮遊遺跡が存在しており、一攫千金を夢見て、訪れる冒険者も多い。もっとも、異世階からの旅人である私の目的は、宝ではなく、箱船エレベーターだ。今では他の階との交流は見られない6085階だが、かつては他の階層との盛んな交易が行われていたという。箱船エレベーターも古代遺跡群のどこかにある可能性が高い。


「あんた、何ボーっとしてんのよ。そろそろ着くわよ」

飛翔艦の甲板で爽やかな風を浴び、ぼんやり物思いにふけっていた私は、少女に声を掛けられる。彼女もまた、夢を追う冒険者の一人であり、訳あって、今は私の相棒だ。


彼女の強気な眼差しは、故郷の幼馴染によく似ている。故郷には、もう私のことを覚えている者などいないだろうが、あそこに帰ることは未だに私の目標の一つだ。


朝日に照らされた浮遊遺跡が、目前に見えてきた。私の相棒は、未知なるものへの期待感に目を輝かせている。1階から旅立った時の私も、こんな表情だったのだろうか。


箱船エレベーターが見つかれば、いずれ彼女と別れなければならない。それは、辛いことだが、一つの世階との別れは、まだ見ぬ新しい世階との出会いの始まりでもある。


今は難しいことは考えず、この冒険を楽しむことにしよう。




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